2023年07月19日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「関東大震災100年」(6) 災害における流言と報道ー災害情報の課題を考える 中森広道・日本大学教授

会見メモ

災害社会学、災害情報論、社会情報論を専門とする中森広道・日本大学文理学部教授が登壇。

流言が生まれるメカニズムをもとに関東大震災で起きた事象を分析するとともに、当時の新聞が何をどのように報じたのかを解説。そこから得られる教訓やメディアの役割などについて話した。

 

司会 元村有希子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

流言飛語 打ち消す報道を

島袋 太輔 (毎日新聞社社会部)

 関東大震災では震災の混乱で、流言飛語が飛び交った。流言飛語は不安を抱えた人々を駆り立て、虐殺が起きた。日本大学の中森広道教授は流言飛語が発生したメカニズムや当時の新聞報道を紹介し、「メディアのチェック機能が十分に働いておらず、流言を広めたり、補強する役割を担った」と指摘する。

 震災直後から流言飛語は広まった。「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れた」などと誤った情報が出回り、新聞は裏付け取材をせずに報道。自警団が朝鮮人を虐殺し、中国人や日本人も標的となり犠牲者が出た。内閣府の中央防災会議が2009年に公表した報告書では、震災の死者・行方不明者10万5000人のうち、1~数%が虐殺の犠牲者としている。

 なぜ、誤った情報が拡散されたのか。中森教授は朝鮮半島の植民地化と独立運動を背景に、日本人は朝鮮人に仕返しされるという潜在的不安や偏見を抱えていたと分析。そのような社会的緊張に加え、人々の自然災害に対する不満のはけ口となり、流言飛語が広まったと指摘する。

 関東大震災の流言飛語は100年前の話として片付けられない。2016年の熊本地震では「近くの動物園からライオンが放たれた」という誤った情報が広まった。ネット上の情報や口づてで拡散された。情報を発信した男性は偽計業務妨害容疑で熊本県警に逮捕される事態にまで発展した。

 関東大震災の流言飛語のメカニズムは現代でも共通しているだろう。むしろ、SNSなどで個人が容易に情報を発信できるようになり、誤った情報が急速に広がる恐れがある。

 中森教授は「過去に起きた流言の知識を増やすことが、うのみにしない動きにつながる」とリテラシー向上の必要性を挙げる。その上で、メディアに対して「時間がかかっても(流言飛語を)打ち消してほしい。それが安心材料になる」と求めた。


ゲスト / Guest

  • 中森広道 / Hiromichi NAKAMORI

    日本大学文理学部教授 / Professor, Nihon University, College of Humanities and Sciences

研究テーマ:関東大震災100年

研究会回数:6

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