2023年04月05日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「イラク戦争から20年」酒井啓子・千葉大学教授

会見メモ

2003年のイラク戦争の開戦から20年が経った。

イラク研究の第一人者である酒井啓子・千葉大学教授が、この戦争が国際的にどのような影響をもたらしたのかを、イラク国内外の被害、米国の退潮、中東の宗派対立、イラク国内各地での抗議運動の高まりなどの点から解説した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

武器供与の危うさ 教訓に

三浦 俊章 (朝日新聞出身)

 イラク戦争の開戦から20年の節目に、日本を代表するイラク政治・中東現代史の専門家が、イラク戦争が国際社会に何をもたらしたかを包括的に語った。

 米国防総省の発表によれば、米兵の死亡者数(最初のイラク駐留中)は4431人だが、イラク国内の民間人の犠牲者の正確な数は分からず、報道ベースでも20万人、医療専門誌の推計では65万人に及ぶという。米経済学者スティグリッツが「イラク戦争は3兆ドル戦争」だと指摘するなど、この戦争に関与した国の人的・財政的コストは膨大なものである。

 しかも泥沼化した戦争の結果、この地域における米国の影響力は大きく衰退し、激化した宗派対立とイラクの内戦はIS(イスラーム国)の台頭を生んだ。その結果、サウジアラビアとイランの対立に象徴されるように、中東全域が不安定になっている。

 イラクの国内に目を転じると、フセイン独裁体制は崩壊したが、宗派や派閥本位の政治勢力が権力を分け合った結果、腐敗がはびこり、体制の機能不全は明らかである。2019年には、市民による抗議運動(10月革命)が起こり、若者や女性が声をあげて外国勢力の介入に反対し、体制転換を訴えた。しかし、世代や社会階層を反映する新たな代替体制を築き上げることはできず、改革の動きは挫折したままである。

 こうした全体像を示した後に酒井氏が強調したのは、ロシアのウクライナ侵攻との関連だった。国際社会がイラク戦争から学ぶべきことのひとつは、大国が直接関与しないまま支援勢力に武器を提供することは、結果として膨大な武器があふれた社会を作ることになり、その後に内戦が起きた場合に収拾がつかなくなるということだった。国際規範を形骸化させてしまったイラク戦争の負の遺産を、今こそ検証すべきだという指摘は重たかった。

 


ゲスト / Guest

  • 酒井啓子 / SAKAI Keiko

    日本 / Japan

    千葉大学教授 / professor, Chiba University

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