2022年11月22日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「中間選挙後の米国と世界」(2) 阿川尚之・慶應義塾大学名誉教授

会見メモ

米国憲法を専門とする阿川尚之・慶應義塾大学名誉教授が、連邦最高裁と中間選挙の関係や、立憲主義と法の支配の視点から、アメリカの今後について話した。

 

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司会 大内佐紀 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

立憲主義と最高裁の視点からみた米国のかたち

川北 省吾 (共同通信社編集委員)

 11月の米中間選挙では、人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定した6月の連邦最高裁判決が重要な争点となり、投票結果にも大きな影響を与えた。日本とは全く異なる政治風景だ。その大本は何なのか。

 阿川さんはそれを違憲審査権に求める。議会、大統領、州の行為の合憲性を審査し、違憲なら無効にできる最高裁の権限である。米国は世界に先駆け、最高裁判決を通じて1803年に確立した。

 1950~60年代、この制度は米国社会を変える。黒人差別撤廃という政治目標を達成する手段として憲法訴訟を起こし、司法の力で解決を目指す動きが広がったからだ。以来、最高裁は重要な政治問題の行方を大きく左右するようになる。

 そこには「矛盾する二つの(国家)原則」が共存しているという。民主主義と立憲主義である。国民を主権者とし、多数決で政治を進める米国は、民主主義に内在する「多数の横暴」という危険を「正しい憲法解釈」によって防ごうとした。

 しかし、事はそれほど単純ではない。ひと口に「正しい憲法解釈」と言っても、条文の原意と意図を厳格に読み取ろうとする保守的な解釈と、現代の価値観を付加しようと試みる進歩的な解釈が併存する。

 9人の最高裁判事はあくまで法律の専門家として憲法と向き合う点では一致しているが、二つの解釈自体にも幅があり、結論は時に大きく異なる。「この点を理解しないと、判決を党派的にのみ捉える過ちを犯す」と阿川さんはくぎを刺す。

 さらに国民感情から離れすぎると、今度は「司法の横暴」への批判を招きかねない。中絶を巡る6月の判決後、最高裁への信頼は揺らぎ、6割近くが「不支持」を表明したとの世論調査もある。

 民主主義と立憲主義の相克の中で、最高裁はどんな役割と課題を抱えているのか。演題を超え、米国のかたちと精髄に迫る会見だった。


ゲスト / Guest

  • 阿川尚之 / Naoyuki AGAWA

    慶應義塾大学名誉教授

研究テーマ:中間選挙後の米国と世界

研究会回数:2

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