会見リポート
2019年12月20日
09:30 〜 10:30
10階ホール
吉野彰・旭化成名誉フェロー 会見
会見メモ
リチウムイオン電池の開発で今年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が登壇した。
吉野氏は12月10日にストックホルムで行われた授賞式に出席し、15日に帰国したばかり。
会見では、地球環境問題について「攻めの姿勢で捉える必要がある。新しい産業を興す絶好のチャンス」と強調するとともに、ユーモアを交えながら、授賞式の様子などについても語った。
司会 原田亮介 日本記者クラブ理事長
会見リポート
「環境問題は絶好のチャンス」
草下 健夫 (産経新聞社科学部)
「環境問題は新しい産業を興す絶好のチャンス。攻めの姿勢で捉えるべきだ」。ノーベル化学賞授賞式から帰国したばかりの吉野氏の論旨は、実に明快だった。
スウェーデン王立科学アカデミーはリチウムイオン電池開発に二つの意義を見いだした。一つはIT社会の実現への貢献で「一応、完成品となった」(吉野氏)。もう一つ、再生可能エネルギーを利用した蓄電による環境問題への貢献は「進行形もしくは未来形。まだサステイナブル社会を実現させたわけではない。期待を込められ重責を感じる」と気を引き締めた。「実現しなかったらノーベル賞剥奪か自主返納だ」と笑いを誘いながらも、表情を崩すことはなかった。
会見ではストックホルムでの記念講演についても報告。研究成果の説明にとどまらず、未来社会を予言する型破りなものになったという。「環境問題は経済性、利便性と調和する技術開発をすれば済む極めてシンプルな話。リチウムイオン電池の周りで、そんな動きが予想される」。電池を搭載した自動車を例に挙げ、AIやIoT、5G、シェアリングの技術や概念が融合し「今の想像とは全く違うクルマ社会が実現する。自動車利用の個人負担は今の7分の1、利便性もはるかに高くなる」と展望した。
折しも、昨年12月の国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)がパリ協定の実施ルールで合意できないまま閉幕。環境問題で失望が広がる中だけに「我々は世界が変わる誘導口にいる」「大きな変革が2025年頃に始まる」と、前向きな言葉の数々が心に響いた。
技術と産業がうまく噛み合い、かつて想像し得なかったIT社会が実現した。吉野氏の予言通り、環境問題も思いもしない解決の道筋をたどるのだろうか。リチウムイオン電池という一つのカギを手にした、人類の努力が問われることになる。
ゲスト / Guest
-
吉野彰 / Akira Yoshino
日本 / Japan
旭化成名誉フェロー、2019年度ノーベル化学賞受賞者 / Honorary Fellow, Asahi Kasei Corp., Nobel Laureate in Chemistry