会見リポート
2020年01月15日
17:30 〜 19:50
10階ホール
試写会「風の電話」
申し込み締め切り
会見リポート
心の声をどこに繋ぐのか
川島 正英 (朝日新聞出身/(NPOスローライフ・ジャパン))
東日本大震災を風化させまい」との願いは、どれほど語られてきたことか。映画「風の電話」も、その思いでつくられた。
電話は、岩手県大槌町のガーデンデザイナー佐々木格氏がつくった。美しく手入れされた庭に白い小さな電話ボックス。電話線は繋がっていない。亡き従兄弟をしのび設置した。
「風の電話」と呼ばれ、いつしか東日本大震災で家族を失った人たちが訪れて心を癒すようになった。気運が高まり、諏訪敦彦監督によって電話を題材に映画化へ。
主人公ハルは高校生。震災で家族を亡くし、一人ぼっちに。伯母と暮らした広島から、ふらり、ふるさと大槌町へ。さまよう。広島の被爆経験を語る老婆とか出産直前の快活娘などさまざまな人々と出会う。
震災で妻と娘を奪われた元福島原発作業員、入国管理センターに収容されているクルドの難民家族など、現代日本の断面を学びつつ旅した。
ハルが辿りついた我が家は、土台のコンクリートと泥水だまりだけ。打ちひしがれるハル。なんとか立ち上がる。行くあてもないまま、教えられて「風の電話」へ、と。
泣く、叫ぶ、聴く、また泣き叫ぶ。この場面の演技は彼女の意のままに、と諏訪監督は語っているそうだが、注目された女優・モトーラ世理奈は期待に応えたといっていい。
そして、彼女の道行を支えた助演陣が、西島秀俊、西田敏行、三浦友和らであり、それぞれ持ち前の味で流れを深めたと見たい。
「風の電話」は新聞、テレビで紹介され、電話をモチーフにした絵本や文庫本も出た。この映画で、なお多くの関心を集めよう。
だが、東日本大震災は驚くほど多くの課題を抱えたままだ。この電話は、どこにも繋がっていない。ハルの心の底からの声をどこに繋ぐのか。この映画、もちろん新聞、テレビも被災者の涙と叫びとを受け止め、国に、しかと繋いでほしい。
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風の電話