会見リポート
2018年11月19日
13:30 〜 14:30
9階会見場
ワーグナー「シュピーゲル」誌東京支局長を囲む会
会見メモ
ドイツの週刊誌「シュピーゲル」の特派員として東京で通算15年以上、またインド、中国でも勤務したヴィーラント・ワーグナーさんが、ドイツへの帰国にあたり90年代からの日本やアジアの変遷について話した。
『Japan– Abstieg in Würde: Wie ein alterndes Land um seine Zukunft ringt(日本、威厳ある下降:将来に取り組む国)』(ドイツ語 Kindle版)
司会 倉重篤郎 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
会見リポート
言論の自由なくして進歩なし
伊藤 千尋 (朝日新聞出身)
「シュピーゲル」誌の東京支局長を計13年務めたほか、中国やインドも含め1990年からアジア報道を続けた稀有なジャーナリストだ。帰国前に「言いたいことすべてを言ってもらう」会で、日本を愛すればこその辛口の指摘をした。流暢な日本語である。
「日本とアジアは歴史的な過渡期にある。日本は台頭する中国とアメリカの板挟みになった。新しい役割を探る時代です」と切り出した。
9月にドイツで『日本-威厳ある下降』を出版した。意図を問われて「高齢化している日本を反面教師とし、ドイツに警鐘を鳴らしたかった。改革しないとこんな国になるぞ、と。『威厳ある』としたのは、表はきちんと保ちながら中身はボロボロということです」と正直に話す。会場から湧いたのは共感の失笑だ。「昔の日本は前向きだった。今はあらゆる面で後退している。悲しい気持ちで日本を去ろうとしています」
日本を悲観する理由は多い。「総理は戦後レジームからの脱却と言うが彼自身、どんな国をつくりたいのかわからないのではないか」「若者は同じリクルートスーツを着て就職活動をする。先進国にふさわしくない」「日本の大学生は『わかんない』と言うばかり。自分の意見を言い議論する教育が必要だ」
敗戦後にドイツは民主主義を贈り物ととらえ、生かさなければならないと考えた。「日本はアメリカの押し付けととらえ、形式だけにとどまっている。会議も形だけだ」。耳が痛いがその通りだ。
外交では「アメリカに堂々と発言を。日韓はお互いに仲良くする努力が必要です。日本は戦後処理を早く終わらせようとするが、歴史は永遠に終わらない」と名言を残した。
日本のマスコミについて「自粛、忖度で第4権力としての自由を生かせていない」と語る。色紙に書いたメッセージは「言論の自由なくして進歩なし」だ。我が報道界への叱咤激励ととらえたい。次の来日には、形だけの威厳を捨て上昇に本気に取り組む日本の姿を見せたいものだ。
ゲスト / Guest
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ヴィーラント・ワーグナー / Wieland Wagner
独シュピーゲル誌東京支局長 / Tokyo Bureau Chief, Der Spiegel