会見リポート
2018年04月11日
17:30 〜 19:30
10階ホール
試写会「マルクス・エンゲルス」
会見メモ
会見リポート
恋愛・友情ありの人間ドラマ
高山 一郎 ( 共同通信社論説委員)
学術的で難解な内容を予想していたが、図らずも、恋愛や友情を織り込んだ熱い「青春映画」だった。今日の世界の形成に深く影響を与え、いまもなお、力を持ち続ける偉大な思想が生まれるプロセスには、人間くさいドラマが幾層にも重なり合っていた。
物語の舞台は1840年代の欧州。英国で起こった産業革命が社会を分断していた。資本家は搾取を続け、市民は昼夜働いても貧困から抜け出すことはできず、人間の尊厳さえ奪われていく。持つ者と持たざる者の格差は拡大する一方だった。こうした環境の中で、「資本論」が芽吹いていく。
カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの2人の青年が心に抱いていたのは激しい怒りだけではない。現状を嘆き、具体策のないスローガンを叫ぶだけでは改善しないことを認識し、不条理の根本を冷徹に見抜き、それを凌駕するための理論を模索していく。
その中で、当初ぎこちなかった2人が互いの著作を評価し合い、友情を固めるシーンがある。エンゲルスが書いた英国の労働者階級に関する論文について、マルクスが「前人未到の第一級の論文だ」と褒めた上で「なぜ事情にこんなに精通しているのか」と尋ねる。
エンゲルスは「実は恋愛のおかげだ」と打ち明ける。彼は貧困の状況を調べるためにスラム街に通い、そこの女性と恋仲になり後に結婚することになる。マルクスにも「糟糠の妻」がおり、パリ、ブリュッセルなどを転々とするマルクスを支え続けた。
だが2人が挑んだ問題はいまだに解決していないどころか、悪化しているようにさえ見える。世界経済を牛耳るIT系巨大企業に富が偏在する一方、1日1ドル以下で暮らす人々も多いのが今日の姿だ。今、再びマルクスに脚光が当たるのも「むべなるかな」ということだろう。
ゲスト / Guest
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マルクス・エンゲルス / The Young Karl Marx