会見リポート
2013年02月15日
14:00 〜 15:30
10階ホール
著者と語る『abさんご』 黒田夏子 作家
会見メモ
史上最年長の75歳で芥川賞を受賞した黒田夏子さんが、これまでの文学活動や文体へのこだわりなどについて話し、記者の質問に答えた。
司会 日本記者クラブ企画委員 橋本五郎 (読売新聞)
文藝春秋の第148回芥川賞受賞者に関するページ
会見リポート
「一語一語乗っていただくと…」
毎日新聞出身 (椎橋 勝信)
モーツァルトやセザンヌに比べて芥川賞は難儀なもの。毎回買っても読破するのは5冊に1冊。今度も半分で放り投げた。で、いつものように、著者本人の話を聞いて読んだことにしようとよこしまな根性で出かけた。
このシリーズは、最初の30、40分ゲストが話し、残りを質疑応答に充てるのが普通。黒田さんの話は4分で終わった。
「作品は仕上げてしまうと書き手から独立した存在となるので、読む方のよろしいように読んでほしい」「なぜ横書きなのか、ひらがなが多いのか、よく訊かれるが、テーマや主張がある作品ではなく、そのまま受け止めてもらうのが一番うれしい」
でも、質問にはひとつひとつ誠実に応じた。
小学3年で終戦、5年で旧カナから新カナに、中学生で当用漢字を押しつけられ、それも常用漢字になったりで、文字の使い方を外から変えられた。これは本質的なものではなく20年30年たったら変わるもの。原則は自分が選んでいいと思った。
で、「文学は縦書き」の習わしを一度やめてみたいと思ったのが30年前。横書きを提唱しているわけではなく、横書きが似合っていたから。
横書き・ひらがなという文体の生まれる秘密をこう説明したが、この中でグッときたのが「これまで言葉にしなかったものを考えてみよう。すでにあるものには熱中できない」のフレーズ。モーツァルトもセザンヌも因習打破に熱中しながら作品を完成させた。
もうひとつは「乗る」。「一語一語乗っていただくと全体が受け止められる。読みにくくないよう工夫はしてある」
生身の人間の切った張ったのリアリズムを面白がっている老人にはチトつらいかもしれないが、残りに挑戦して乗ってみることにした。
ゲスト / Guest
-
黒田夏子 / Natsuko Kuroda
作家 / Writer
研究テーマ:著者と語る『abさんご』 芥川賞受賞作