会見リポート
2011年06月22日
13:00 〜 14:30
10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」畑村洋太郎 政府事故調委員長
会見メモ
政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の委員長に就任した畑村洋太郎・東京大学名誉教授・工学院大学教授が記者会見し、事故調査の進め方や基本的な考え方を話した。
≪「(ヒアリングする人が)もし隠していたことがあとでわかると、その人の名誉にかかわる。それぞれの人には誇りがある。きっと嘘はつけない」≫
畑村さんは、「何をやればいいのか見当がつかないが、だれかがやらなきゃいけない。引き受けないのは無責任な気がして委員長を引き受けた」と切り出した。世の中でこわいのは津波と原子力だった、と述べ、原子力発電について「狭いところに大きなエネルギーをため、人間が制御して使うことがこわい。非常にこわいが扱わざるを得ない」と説明した。事故調査・検証委員会の進め方について、6月7日の第一回委員会で話した次の8項目をくわしく話した。①畑村の考えで進める②子孫のことを考え100年後の評価に耐えられるものにする③国民が持っている疑問に答える④世界の人々が持っている疑問に答える⑤責任追及は目的としない⑥起こった事象そのものを正しくとらえる⑦起こった事象の背景を把握する⑧再現実験と動態保存が必要である。
強制力がない委員会の調査で嘘をつかれないか、という質問に「隠したり嘘をつけば、矛盾が出てくる。時系列の進行を正確にとらえていけば、嘘はつけない」「政治家にも誇りがあるから、評価に耐えるようやってくれるだろう」と答えた。また「知りたいときに知りたいことがわかる、という文化を日本にも作らなければならない。それがないから、日本中が自信をなくしている。事故調査委員会も事故から1週間から10日ぐらいで発足しているべきだった」と述べた。
毎月1回開く委員会は公開し、英語の同時通訳をつける意向を示した。
司会 日本記者クラブ企画委員 神志名泰裕(NHK)
畑村創造工学研究所のホームページ
会見リポート
「責任追及は目的にしない」
長谷川聖治 (読売新聞科学部次長)
収束のメドが立たない東京電力福島第一原子力発電所事故。原因はどこにあるのか、真相解明に世界の期待が集まる中、6月7日に始動した政府の「事故調査・検証委員会」の畑村洋太郎委員長(東大名誉教授)は、講演で「高い授業料を払った。何が起き、だれが判断し、事故がどう進行したのかを調べ、学びとらないといけない」と強調した。
自らが創始した「失敗学」は、JR福知山線脱線事故など多くの事故原因の究明に役立てられた。その失敗学に基づく事故調の核心は「責任追及は目的にしない」にある。
「誰が悪いという議論は、事故の真の姿を捉えることを不可能にし、あの人でなかったらとなる。教訓という宝物を生かせず、100年後の評価にも耐えられない」と語る。
原子力は津波とならび怖いものだと思い続けてきたという。原発で働く人に会った時、生真面目だが、決められたこと以外に関心がない姿を見て、「何かが起こるような気がしていた」と振り返る。その2カ月後、JCO臨界事故が発生。巨大システムの中で、全体を俯瞰できない「局所最適、全体最悪」という失敗だ。今回の事故にも通じる原子力ムラの病巣の一つであり、こうした失敗は「予測できる」と主張する。
事故調を進めるにあたり、利害関係を斟酌しないよう「畑村の考えで進める」という断固とした決意も示す。「疑問に答える」など8項目の方針を打ち出すが、事故から3カ月が経過、死に体の菅首相なども調査対象となり、何の権限もない委員会の実行力に疑問をはさむ声もある。
見えない放射線がでる現場視察、多岐にわたる当事者の事実認定。難しい作業が続くが、畑村委員長は「つけるウソはついてみなさい」。同時通訳で事故調を世界に発信し、12月の中間報告に向け、「失敗は隠すものではない」という失敗学の文化を根付かせられるか。挑戦は続く。
ゲスト / Guest
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畑村洋太郎 / Yotaro HATAMURA
日本 / Japan
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調) / Chairperson, the Investigation Committee on the Accident at the Fukushima Nuclear Power Stations of Tokyo Electric Power Company
研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」