2011年05月11日 16:00 〜 17:00 10階ホール
研究会「中東 ムバラク退陣後のエジプト情勢」池内恵 東大先端科学技術センター准教授

会見メモ

エジプト政治の移行プロセスをみることが、中東情勢のこんごの展開を理解するために必須だという。それは、エジプトの政治理念や制度が、エジプトモデルとしてアラブ世界に影響を与えてきているためである。欧米諸国がエジプトの民主化プロセスの風向きを注視するのはそのためである、と。

このプロセスには、①大規模デモで示された若者の政治勢力②旧政権の中枢機関「国軍最高評議会」③合法化された「ムスリム同胞団」の3つの要素から成り立っている。ここにムスリムとキリスト教の宗派間関係やファタハとハマスの和解合意をとりつけた、外交姿勢などを加えることで、移行期の力学がより鮮明になってくる、と分析する。

3月の憲法改正を問う国民投票では約8割が賛成し、9月の議会選挙、年内の大統領選挙や憲法改正の道筋ができた。この方向に動き始めており、大きく脱線することはないと見ている、とも。

司会 日本記者クラブ企画委員 脇祐三(日経新聞)


レジュメ(日付の一部に修正があります 5月19日)

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/05/5096b6027f00d5ec694fde6d2a42f7ad.pdf

東大先端科学技術研究センター 池内恵氏のページ

http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/people/staff-ikeuchi_satoshi.html


会見リポート

デモ主導若者らが政治勢力に

久保 健一 (読売新聞国際部)

研究で滞在中のカイロからの一時帰国に合わせた講演。2月のムバラク政権崩壊後のエジプトと周辺アラブ諸国の今後をウオッチするための着眼点を指摘しつつ、現地に拠点を持つ専門家ならではの具体的情報も盛り込まれ、示唆に富む内容だった。


ムバラク政権崩壊に伴う政治・社会構造の変化として、大規模街頭デモを主導した「シャバーブ」と呼ばれる若者たちが「実力のある政治勢力として現出した」と指摘したのが印象的だった。権力者とその周辺を中心に組み立てられる傾向が強かったアラブ圏の政治分析は様変わりしたと言い、「クロウト的な考え方が通用しなくなった」と言い切った。


政権崩壊後のアラブ世界を「新生エジプト・モデル」と、従来からの権威主義的な政治体制である「サウジアラビア・モデル」との対比で分析するとした視点も興味深かった。ナセル・エジプト大統領が率いたアラブ民族主義革命が、サウジの絶対君主を震え上がらせた1950年代と似た構図だとの指摘には、なるほどと思った。サウジにとって潜在的脅威であるイランとエジプトの関係改善の動きについても、こうした視点から眺めると腑におちた。


アラブ・メディアの動向では、エジプトで独立系紙「マスル・アルヨウム」に広告が集まっていると指摘。ムバラク政権の翼賛新聞だった「アル・アハラム」などは、とりわけカイロ中心部では、人気が凋落しているという。テレビでは、「アル・ジャジーラ」「アル・アラビーヤ」といった湾岸アラブ諸国発の衛星チャンネルが、湾岸諸国の反政府デモの動向などに関し当局の意を反映した統制報道を展開したために大衆の失望を買ったという。「アルヨウム」を含め、エジプトで台頭しつつある独立系メディアが、この穴を埋める可能性があると語った。


ゲスト / Guest

  • 池内恵 / Satoshi IKEUCHI

    日本 / Japan

    東大先端科学技術センター准教授 / Asso. Prof., Research Center for Advanced Science and Technology, the University of Tokyo

研究テーマ:中東 ムバラク退陣後のエジプト情勢

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