2011年05月12日 17:00 〜 18:00 宴会場(9階)
シリーズ企画「3.11大震災」 小川彰 岩手医科大学学長

会見メモ

「東日本大震災」という命名からして現地から遠い東京での判断に基づいたものだと批判した。今回は地震災害ではなく、津波被害が圧倒的多数を占め、むしろ「大津波大災害」と名付けるべきものだ、と。震災当日、100人を超える負傷者が病院へ運ばれてくるとの連絡があり、医療関係者100数十名と待機していた。ところが、誰も運ばれてこなかった。これは避難して助かったか、逃げ遅れて亡くなったかの2つに1つしかなかった津波の恐ろしさを如実に物語るものだ、とも。

現在の岩手県内の医療体制は、いまだに仮設診療所の整備をしている段階にある。これを大学と基幹病院との連携や各市町村の再生状況に応じたレベルにまでに引き上げていきたい。今回、ライフラインが止まれば、CTやMRIなどの高度医療の機能も止まることが明らかになった。そこで、岩手医科大学病院では、全国初の試みとして5000KW程度の発電機能を併設した自己完結型のモデル病院を目指すことを検討している、と。


司会 日本記者クラブ企画委員 井田由美(日本テレビ)


岩手医科大学のホームページ

http://www.iwate-med.ac.jp/


会見リポート

震災に強い医療体制への提言

八十島 綾平 (日本経済新聞社会部医療班)

東日本大震災の現場で災害医療を指揮する当事者として岩手医科大学の小川彰学長は、災害医療の現場からの報告と、震災に強い医療体制への提言を行った。


未曽有の大災害とあって想定外の事態が多かったようだ。津波の被災者は無傷か死亡の両極端で、大学病院には「当日は患者がほとんど来なかった」。全国から駆けつけた支援チームは動きが把握できず、結局、災害対策本部に司令塔を設置して許可証を発行したという。支援側には「とにかく送り込む」という姿勢も多いが、被災地では医療の偏在も深刻で、支援チームのマネジメントは重要課題の一つだろう。


小川氏は「ライフラインの寸断で画像診断など高度医療の供給が不可能になる」という事実を強調し、特に首都圏直下型地震に警鐘を鳴らした。計画停電は辛くも逃れたが、都心部で同じ事態が起きれば、高度医療の集積度合いに比例して事態の深刻さも増すだろう。


そのうえで、小川氏は「エネルギー自己完結型災害拠点病院」を目指す考えを示した。5000㌔㍗クラスの小規模発電所を備え、深さ数百㍍の井戸も掘る構想だ。「何もそこまで」という話ではない。首都圏でも計画停電後、井戸を掘り発電機能を3000㌔㍗に増やそうとしている病院が実際にある。


過疎地における被災地医療モデルも提言した。北海道に次いで広い岩手県では「過疎地兼遠隔地」も多く、医師を派遣し続けるのは効率面からも難しい。診療所や基幹病院、介護福祉施設などをインターネットでつないでシステム化し、初診以降はテレビ会議システムで外来診療できる仕組みが必要と訴えた。


その拠点に大学病院を、という点は全国医学部長病院長会議顧問の立場も垣間見えたが、実体験に基づく提言を生かし次の大災害に備えるための全国的な議論は不可欠だろう。



ゲスト / Guest

  • 小川彰 / Akira OGAWA

    日本 / Japan

    岩手医科大学学長 / President of Iwate Medical University

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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