会見リポート
2021年08月03日
14:00 〜 15:00
オンライン開催
「新型コロナウイルス」(70) 人類学者 磯野真穂さん
会見メモ
医療人類学を専門とする磯野真穂さんが「病気をめぐる現実の実感・想像力」について話した。
司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)
※本会見の動画はゲストの意向により公開しません。
会見リポート
恐怖による行動変容限界、医療の構造的問題の報道を
深谷 優子 (共同通信社科学部)
医療人類学を専門とする磯野真穂さんは、人の病気や死を生物学ではなく他者との関係から捉える研究をしている。まずは民族学的観点から「現実の実感」について説明、「直接の経験と得られた情報の融合でできている」とした。次に「新型コロナウイルスの実感」を考察。圧倒的多数がコロナを経験したことがない当初は「情報を用い人々の想像力に介入し、恐怖を喚起することで醸成された」と話した。
だが感染者が大幅に増えてきても、家族や友人がコロナで死ぬという経験を多くの人がしたわけでもない。そのため1回目の緊急事態宣言時とは異なり、現在の感染拡大対策では「恐怖と罪悪感で行動変容を起こそうとする手法は限界を迎えている」と警告した。
リスクについての説明で、昨年1月から約1年半のコロナによる死者約1万5千人に対し、自殺による死者は3万2千人近くいることを紹介。コロナによる死は日々報道されているため、大きなリスクとして捉えられているとの見方を示した。
また悪いことが起こった際の説明として、英社会人類学者のダグラスを引用した。今回は「外部の敵や内部の裏切り者ら社会で責めやすい存在に批判が向いている」。出歩く若者や夜の街、東京五輪やワクチン未接種者などが標的になっているが、「日本の全病床数の4%しかコロナに割り当てられず、保健所などのマンパワー不足で行き先のない患者が自宅にとどめられる構造的問題をもっと報道で指摘してほしい」と要請した。
医療側の問題が注目されない理由として、当事者が社会の中で権力を持つ医師であることを指摘。「彼らに『現場を知らないのに何が分かるのか』と言われると何も言えなくなる。医療の構造に問題があるという提言自体をしづらいのでは」とし「医療は暮らしを守るためにある。暮らしが破壊されるのであれば医療を変えるべきだ」と強調した。
ゲスト / Guest
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磯野真穂 / Isono Maho
人類学者 / Anthropologist
研究テーマ:新型コロナウイルス
研究会回数:70