2009年03月02日 00:00 〜 00:00
高梨昌・元雇用審議会会長「雇用問題」2

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会見リポート

派遣法の原点に返れ

菊谷 隆文 (東京新聞社会部)

「赤ん坊のときはおとなしかったけど今はモンスター」─。労働者派遣法をこう例える識者がいる。1985年の同法制定に深く携わった〝ミスター派遣法〟ですら、同じ憂いを抱いていることが研究会を通じてよく分かった。

規制緩和の流れで同法の改正(悪)が重ねられた結果、派遣労働者が「雇用の調整弁」になり、不安定労働を強いられている現実。そして労働者を「物品」扱いで〝売り買い〟する派遣元と派遣先の法令軽視の姿勢が「モンスター」ぶりを助長してきた。特に、技能教育がおざなりのまま、未熟練労働者が軽作業や製造業に派遣される実態を、氏は忸怩たる思いを込め「手抜き工事と一緒」と嘆いた。

「派遣を(通訳などの)専門職に限定し、一種の職業別労働市場をつくりたかった」。これが、そもそもの派遣法の精神と力説。年功序列、終身雇用に守られない専門職の労働条件向上のための法律だったのだ。

だが、生みの親の理想に反して99年、専門職限定の派遣が原則自由化された。「政」「財」に「労」も加わった規制緩和の大合唱、バブル崩壊後の失業率是正を理由に「パンドラの箱」は開けられた。

発言の趣旨は「派遣法の原点に返れ。経過措置は必要だが99年以前に戻すべきだ」と、筆者は理解した。派遣業種を専門職に限定し、「派遣切り」が問題になった製造業派遣は完全請負化に。ワーキングプア(働く貧困層)の温床の日雇い派遣は、ほかの日雇い労働と特別法で規制する必要性も説いた。

81歳とは思えぬ、早口で淀みのない口調。「現役を退いているから発言の影響力は少ない」と、講演を締めくくったが、ゆがんだ派遣労働制度を立て直すには、労働問題に携わる政治家、官僚、そして記者も氏の発言を重く受け止めるべきだろう。

ゲスト / Guest

  • 高梨昌 / Akira TAKANASHI

    日本 / Japan

    元雇用審議会会長 / Former Chairman, Employment Council

研究テーマ:雇用問題

研究会回数:2

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