2018年12月17日 18:00 〜 19:35 10階ホール
試写会「ナディアの誓い」

会見メモ

2019年2月1日アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

公式サイト


会見リポート

「声なき声の代弁をしたい」

大久保 真紀 (朝日新聞社社会部)

 女性として、家族をもつ生活者として、故郷のある人間として、そして、当事者への取材をしてきた記者として、心をかきむしられた。

 この作品は、今年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさん(25)に密着したドキュメンタリーだ。2014年8月にナディアさんらヤジディ教徒が暮らすイラク北部のコチョ村に過激派組織「イスラム国」(IS)がやってきて、男性と高齢の女性たちを虐殺した。ナディアさんは、母と6人の兄弟を殺され、自身はほかの女性らとともに捕らわれ、性奴隷にされた。

 映画は、ドイツに逃れたナディアさんが自らの体験をメディアに繰り返し語り、各国の政治家に訴え続け、国連親善大使となる23歳当時の日々を描く。「声なき声の代弁をしたい」。故郷の村で美容室を開くことを夢見るふつうの女の子だった彼女が、悩み苦しみながらも証言を続けるのは、いまだに捕らえられている女性たちが、故郷を奪われた同胞たちが、苦難の中にいるからだ。

 しかし、彼女の肩にのしかかる現実は過酷だ。何をされたのか。どう感じたのか。そうした質問を繰り返すメディア。訴えても訴えても動かぬ世界。難民となったヤジディ教徒たちが国際的な舞台に立つ彼女に向ける希望と期待……。時に失望し、そしてまた、同胞に支えられ顔を上げる彼女の姿は息をのむほかない。

 「あなた方次第です」。静かに語る彼女の言葉は、世界中にいる弱い立場の人たちを救えるかどうかは、私たち一人ひとりにかかっているのだ、と画面を通して迫ってくる。

 ノーベル平和賞の受賞で今年、世界は彼女の存在、その訴えを共有することになった。が、ISが人道に対する罪で正義の裁きを受けるという願いはいまだ実現されていない。映画の原題は「On Her Shoulders」。彼女が肩の荷を下ろせる日はいつくるのだろうか。


ゲスト / Guest

  • ナディアの誓い

    ON HER SHOULDERS

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