2023年06月22日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「ジャニーズ問題から考える」(3) 性暴力報道の行方 河原理子・東京大学大学院特任教授、元朝日新聞記者

会見メモ

元朝日新聞記者で、1990年代から性暴力による被害者をはじめ事件・事故の被害者を取材してきた河原理子・東京大学大学院特任教授が登壇。性暴力報道や社会意識がこの間どう変化したのか、報じる上での課題、トラウマ体験をした人の取材のあり方などについて、自身の経験も含め語った。

 

司会 田玉恵美 日本記者クラブ会員(朝日新聞)

 

※YouTubeでのアーカイブ配信は2024年6月21日(金)17:00までです。


会見リポート

「意識の壁」なくすために

坂田 奈央 (東京新聞政治部)

 性暴力を伝える記事が増えたのは2017年以降のことだという。それ以前も当然犯罪自体はあったが、記事の数としては多くなかった。「伏せることが一番で、それが被害者のためでもあるはずだという強い〝信念〟があった」。河原理子さんは1990年代後半、性暴力に関する記事が掲載に至ることに多少の困難があった背景を、こう指摘した。その後、「信念」の根拠を調べるうちに、事のおかしさに気づいたという。

 戦後からそれまでの朝日新聞で、性犯罪に関する記事を調べると、「下半身にいたずらされた跡があり」などと表現されており、疑問を感じた。性被害であることは伝わるが、被害の深刻さが伝わらない―。

 さらに当時は、「強姦(ごうかん)」という言葉が記事で使えなかった。社内の取り決めで、「暴行」などへの言い換え用語に指定されていたためだ。理由を調べると「新聞の品位を保つため」「不快感を与える言葉を使わない」。他の例として「しらみつぶし」や「けつをまくる」が挙げられていた。河原さんは「人権が理由じゃなかったことに、衝撃を受けた」と振り返った。

 こうした問題を、河原さんは「意識の壁」と表現した。社内には、性をめぐる記事への表現や掲載に対する根強い抵抗感や戸惑いがあった。そこには、編集局幹部だった年上男性たちと、記者だった河原さんとの「恥」の感覚の差や、性被害が身近か否かの男女の差もあった、と分析した。普通に話してもわかってもらえないことも、発見したという。こうした壁はおそらく、未だにどのメディアにも内在する。

 どうしたら壁はなくせるか。河原さんが挙げたのは、▽報道の現場に多様な生活経験を持つ人がいること▽変だと思ったことが言える環境であること▽これらがつぶされない体制を考えること。私たち報道機関にとって貴重な助言だと感じた。


ゲスト / Guest

  • 河原理子 / Michiko KAWAHARA

    東京大学大学院情報学環特任教授、元朝日新聞記者

研究テーマ:ジャニーズ問題から考える

研究会回数:3

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