2023年06月23日 14:00 〜 15:15 10階ホール
「Jリーグ30年」 中堅クラブの挑戦

会見メモ

1993年に10クラブでスタートしたJリーグは現在、41都道府県に本拠地を置く60クラブが参加している。リーグの理念が全国に広がった一方、大きなスポンサーを得ることが難しい地方では、多くのクラブが厳しい経営を迫られている。地方クラブ運営の最前線を知る湘南ベルマーレ代表取締役会長の眞壁潔さん(写真1枚目)、ヴァンフォーレ甲府元社長の海野一幸さん(写真2枚目)、ファジアーノ岡山オーナーの木村正明さん(写真3枚目)が、地方クラブの現状や今後の展望について語った。

 

司会 名取広紀 日本記者クラブ監事(報知新聞)


会見リポート

「地方」が支えるサッカー文化

田原 和宏 (毎日新聞社運動部専門記者)

 「地域密着」の理念を掲げるサッカーのJリーグは今年30年を迎えた。クラブ数は当初の10から60に拡大。ホームタウンも全国41都道府県へと広がった。その発展を地道に支えたのは「中央」ではなく「地方」なのだと気づかされた。

 登壇した3人は、厳しい地方クラブの運営の最前線を知る。ヴァンフォーレ甲府元社長の海野一幸さんは解散寸前まで追い込まれたクラブを再建したことで知られる。湘南ベルマーレ代表取締役会長の眞壁潔さんは、親会社の撤退で揺れるクラブの存続に尽力。広域化され、市民クラブとして再出発後、経営のかじ取りを担う。ファジアーノ岡山オーナーの木村正明さんは古里のクラブを地域リーグからJリーグへと押し上げた。その経営手腕が評価され、Jリーグの専務理事も務めた。

 海野さんは「再建の元となったのが地域貢献活動」と振り返る。甲府は2000年に経営危機が表面化。その翌年、海野さんは社長に就任した。お金がないから勝てない、弱いから観客もスポンサーも集まらない。そんな「負のスパイラル」を抜け出すため、選手たちを積極的に地域に送り出した。小中学校でサッカーを教え、病院や特別支援学校、高齢者施設を慰問した。選手が身近な存在になることで観戦する人々も増えていった。地域貢献を柱とする身の丈経営は「甲府モデル」と呼ばれ、地方クラブの手本となった。

 眞壁さんは市民クラブとは何か、と問うた。サッカー文化が根付くドイツのクラブを例に「大きな資本の企業が加わっても、市民の声が優先される、意見交換ができるのが市民クラブ」と強調した。湘南も18年にフィットネスクラブを運営する企業の傘下に入ったが、市民クラブの文化は失われていない。予算規模が限られる中、選手育成に力を注ぎ、遠藤航(シュツットガルト)ら世界で活躍する選手を輩出してきた自負がある。眞壁さんは「サポーターや支援者は我々が育てたという思いをとても大切にしている」と語る。

 一方、「地方」だけでなく「中央」の視点も併せ持つ木村さんは、厳しい現実も指摘した。「Jリーグクラブ経営ガイド」に登場する、相関分析のデータだ。クラブの年間成績を縦軸、人件費を横軸に並べて関係性の度合いを調べると、強い相関が明らかになった。勝敗を決めるのはクラブの資金力という厳然たる事実を示した上で、木村さんはこう説いた。「日本は東京一極集中。地方クラブが生き残るにはその地で根を張り、(収入の)太い柱を立てることが必要だ」

 「地方」で経営基盤を固め、資本力のある責任企業を「中央」から呼び込めるか。Jリーグの未来は、そこにかかっている。


ゲスト / Guest

  • 海野一幸 / UMINO Kazuyuki

    ヴァンフォーレ甲府元社長

  • 木村正明 / KIMURA Masaaki

    ファジアーノ岡山オーナー

  • 眞壁潔 / MAKABE Kiyoshi

    湘南ベルマーレ代表取締役会長

研究テーマ:Jリーグ30年

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