2022年10月13日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「全世代型社会保障」(3) 問われる「年収の壁」ー 減り続けるパート主婦の労働時間

会見メモ

野村総研は9月、配偶者のいるパート女性の就労実態と働き方に関する意向調査を行った。

この結果、いわゆる「年収の壁」を越えても「働き損」にならないなら年収が多くなるように働きたいと考える人が8割近くいることがわかった。

調査を担当した武田佳奈・未来創発センターグローバル産業・経営研究室エキスパート研究員、梅屋真一郎・同制度戦略研究室長が登壇。これらの調査結果を説明するとともに、物価上昇に対する賃上げ対策の一つとして、政府は年収の壁による働き損を解消できる支援制度を早期に実施するよう提言した。

 

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「年収の壁」撤廃へ施策を提言

石田 敦子 (毎日放送東京報道部)

 この数年で、女性は働き手としての役割をずいぶんと期待されるようになった。背景には人手不足など切実な状況があり、その解決に一役買ってほしいという事情のためだ。

 武田氏は、正社員の夫がいるパート女性の「年収の壁」を取り除くことでもたらされるメリットについて、調査データを基にロジカルにそして説得力を持って説明した。

 パート女性の年収が100万円を超えると、段階的に税や社会保険料の負担が発生、所得制限がある企業の家族手当も支給外となる。そのため年収138万円でも、手取りは年収100万円の時とほとんど変わらないという「働き損」が生じるのが現状だ。なので、働く時間を調整して年収を抑えるのだが、時給等の上昇によって年々パート女性の労働時間は短くなっている。この現象は10年以上前から課題とされてきたが、ここにきて解決が急がれるのは、急激な物価高に対応するためだ。

 武田氏はあくまで時限的措置として、政府には「年収の壁」を超えた配偶者のいるパート女性に「社会保険料負担発生により減った手取りを補う施策」を、家族手当の所得制限を撤廃した企業には「インセンティブを与える施策」を求める。それにより世帯年収は上昇し、個人消費が増え、需要が増加し、追加生産が増えるという好循環も見込めるという。武田氏は今この瞬間を「経済低迷の悪循環に陥るか、デフレから脱却し、経済を再建できるかの正念場」と捉えている。梅屋氏は、全世代型社会保障の抜本的改革が本筋であるとしながらも、この課題を社会全体で合意形成するには時間がかかるため、まずは「年収の壁」のような小さな制度から変えていくべきと話した。       

 「年収の壁」はそもそもは性別役割分業の問題だが、女性が労働市場に出やすくなれば働き方の自由度も上がる。いま、政府の視界にこの壁は入っているのだろうか。


ゲスト / Guest

  • 武田佳奈 / Kana TAKEDA

    野村総合研究所未来創発センターグローバル産業・経営研究室エキスパート研究員

  • 梅屋真一郎 / Shinichiro UMEYA

    野村総合研究所未来創発センター制度戦略研究室長

研究テーマ:全世代型社会保障

研究会回数:3

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