会見リポート
2019年11月21日
13:00 〜 14:30
9階会見場
「朝鮮半島の今を知る」(36)李栄薫(イ・ヨンフン)歴史学者(『反日種族主義』編著者)
会見メモ
『反日種族主義』は、日本統治、慰安婦問題、徴用工問題など現在の「反日」の論拠となる定説に対し、当時の統計や文書など一次資料に基づいて反論している。
李栄薫氏を中心に学者やジャーナリストが執筆し、今年7月に韓国で出版された。9月時点で13万部を超えるベストセラーになっている。
11月14日の日本語版の刊行(文藝春秋)にあわせ、来日した李栄薫氏が登壇し、出版の経緯や反響について語った。
司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)
通訳 田子美由紀
会見リポート
自国批判でベストセラー/「韓国の革新派」が対象
佐々木 真 (時事通信社解説委員)
韓国の研究者たちが日韓問題で自国を批判しながらベストセラーになった『反日種族主義』。この本が日本でも人気を得たことで、危機にある両国関係は良い方向に向かうのだろうか、それともさらに悪くなるのだろうか。そんなことを考えながら、編著者の李栄薫氏の記者会見を聞いた。
会見はいつも以上に熱気にあふれていた。席は聴衆で埋まり、質疑応答も活発で、中には本に対する手厳しい批判もあった。
李氏は「反日種族主義」という聞き慣れない言葉について、韓国社会で文化的、歴史的に形成された日本に対する恨みの感情だと説明。これが対立を生み出しているとの認識を示した。もともと、このような考えは「民主化」以前は政府によって抑え込まれていたが、金泳三政権誕生後に台頭したとして、日韓関係の悪化は「民主派」に責任があるとの考えをにじませた。
従軍慰安婦や徴用工の問題については、韓国で広く受け入れられている「性奴隷」や「強制徴用」の見解を否定し、「慰安婦制は公娼制の一部」「『募集』と『斡旋』を『徴用』に入れるのはやりすぎ」と反論。日本の責任を問う質問には答えなかった。
聞いていて、李氏が最も批判したいのは、韓国の革新派ではないかと感じた。発言には、現在韓国社会の主流となっている革新派によって自由民主主義体制が崩されるかもしれないとの危機感が顔をのぞかせていた。これを何とか防がなければならないという思いの延長線上に韓国の反日批判も位置しているようだ。
実証的な分析も含むこの本は韓国では、「親日派」をたたく文在寅政権に批判的な保守的な人たちが好んで購読したとみられる。一方、日本では韓国に厳しい人たちが自分の考えを補強するために求めているのではないか。両国の革新派は激しい批判か無視のようだ。本をめぐる状況は日韓の現状の一断面を表している。
ゲスト / Guest
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李栄薫 / Lee Yong-hoon/이영훈
歴史学者、『反日種族主義』編著者 / professor-emeritus, Seoul National University
研究テーマ:朝鮮半島の今を知る
研究会回数:36