会見リポート
2019年10月23日
14:00 〜 15:00
10階ホール
「HIV/エイズ」松下修三・日本エイズ学会理事長
会見メモ
第33回日本エイズ学会学術集会・総会(11/27-29)を前に、同会の会長も務める松下修三・日本エイズ学会理事長(熊本大学教授)が会見し、HIV診療の最新情報と差別や偏見をめぐる現状について語った。
司会 宮田一雄 日本記者クラブ会員
会見リポート
HIVは他人事ではない、多様性を受け入れる社会づくりを
田村 良彦 (読売新聞社メディア局専門委員・ヨミドクター編集部)
かつて「不治の病」「奇病」として恐れられたHIV感染症/エイズは、この30年余りの医学の進歩によって、抗ウイルス薬が次々に開発され、いまや感染しても普通に生きられる時代になった。治療をきちんと続ければ、パートナーへの感染も起こらない。平均寿命も一般の人とあまり変わらないレベルにまでに達しているという。
ところが、治療が飛躍的に進歩したのに対し、病気に対する偏見や差別は依然根強い。むしろ、効果的な治療法がなかった時代よりも、偏見や差別の問題はより深刻だと言えるかもしれない。
最近でも、感染を理由に採用内定を取り消されたのは違法だと雇用者側を訴えた裁判のニュースが話題なったばかり。日本エイズ学会でも、一般論としてではあるが、就業差別の廃絶を求める異例の声明を6月に出している。松下氏は「正しい知識のアップデートが必要だ」と会見でも繰り返し強調した。
松下氏はまた、差別や偏見の背景には、同性愛者に対する偏見があることを強調した。映画「ボヘミアン・ラプソディー」でも描かれたフレディ・マーキュリーの生涯を例に出し、いわゆる「反同性愛法」が施行された当時の英国において同性愛に対する偏見と差別が助長されたことが、ゲイコミュニティに正しい知識が伝わらない妨げとなったという。「性感染症の予防には、性の多様性を受け入れる社会が求められている」と松下氏は重ねて訴えた。
偏見や差別と同じくらい問題なのは、社会の無関心ではないか。エイズの問題はどこか他人事であり、感染者の自己責任を問う風潮は根強いという。松下氏は「HIVは個人の責任ではない。検査を受けやすいシステムづくりなど社会の理解が必要」と言い切り、スティグマのない、多様性を受け入れる社会づくりを求めた。
ゲスト / Guest
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松下修三 / Shuzo Matsushita
日本 / Japan
日本エイズ学会理事長、第33回日本エイズ学会学術集会・総会会長、熊本大学教授 / chairman, The Japanese Society for AIDS Research / professor, Kumamoto University
研究テーマ:HIV/エイズ