会見リポート
2019年05月24日
14:00 〜 15:30
10階ホール
「プラットフォーマー規制の論点」(1) デジタル経済と税制を考える 森信茂樹・東京財団政策研究所研究主幹
会見メモ
デジタル経済は、モノではなくサービスの供給に対価を払うビジネスモデル。たとえば音楽はレコードやCDといった「モノ」から、ダウンロードサービスに対して対価を払うようになった。これに税が対応できていない。
デジタル財の消費者は「コンシューマー」ではなく「ユーザー」。単に価値を消費するだけでなく、サービスの価値をあげることにも寄与している。
このように従来とは違うビジネス構造への課税において、各国の利害がぶつかる複雑な議論を整理して解説した。
司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
会見リポート
巨大IT企業課税、国家の攻防
小林 泰明 (読売新聞社経済部)
「GAFA」に代表される巨大IT企業の課税逃れをどう是正するか。国家と巨大IT企業の規制を巡る攻防が激化する中、森信茂樹氏は巨大IT企業への課税のあり方に焦点を当てて解説した。インターネット時代に合わせた大胆な課税方式の変更が求められる一方、各国の利害も絡んで国際的な枠組みの議論が難航している様子が伝わってきた。
巨大IT企業は、ビッグデータや人工知能(AI)といった無形資産(知的財産)を使ってサービスを提供しており、無形資産を税率の低いタックスヘイブンなどに移し、課税を逃れている。森信氏は、物理的な拠点に対して課税してきた従来の方式が通用しなくなっている、などと指摘。税収不足に悩む国家との間で摩擦が広がっており、英仏など一部の国では、対抗策として独自の課税に乗り出す動きが出ていることを紹介した。
巨大IT企業に課税する仕組みを作るには、旧来型の税制をインターネット時代に合わせて大きく作り替える必要がある。新しい国際課税の仕組みは現在、OECDで検討が進んでおり、サービスの利用者がいる国が課税の権利を持つ方向で議論が進んでいるという。ただ、森信氏は議論の先行きを楽観してはいない。国際課税の議論は「国と国の税金の取り合い」の側面が多分にあり、GAFAを抱える米国と、有力な巨大IT企業が少ない欧州では利害が異なるためだ。新しい枠組みは、2020年の合意を目指して議論が進む。6月のG20で議長国を務める日本にかかる期待も大きいという。
森信氏は「AI時代の格差を是正するのは税と社会保障。そのために税源を確保しないといけない」と訴えた。「税は国家なり」といわれ、国の根幹を支える制度として長く機能してきた。国境を越えて強大な力を持つようになった巨大IT企業に対する課税の議論は、国家の存在意義を改めて問うているように思える。
ゲスト / Guest
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森信茂樹 / Shigeki Morinobu
東京財団政策研究所研究主幹 / research director, The Tokyo Foundation for Policy Research
研究テーマ:プラットフォーマー規制の論点
研究会回数:1