2016年10月28日 15:00 〜 16:00 10階ホール 
ガブリエル・ドゥケ 駐日コロンビア大使  ノーベル平和賞 会見

会見メモ

ノーベル平和賞

和平を拒否した国民投票も、ノーベル平和賞もびっくりのニュースだった。「私も驚いた。国民投票でNOを予想した人はほとんどいなかった」。和平交渉は再開される。「もっと広がりがあり持続できる平和の機会になってほしい」
司会 中井良則 日本記者クラブ顧問


会見リポート

二転三転、驚きのコロンビア 早く平和を手にしたい オハラ!

今年、コロンビアのニュースはびっくりの連続だった。9月、政府と反政府左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)がキューバ・ハバナで和平合意に署名した。FARCが正式結成された1964年から数えても52年に及ぶ南米最長の内戦が話し合いで終結する。身代金誘拐と麻薬取引を資金源にアンデス山中にこもったゲリラとの争いに出口は見えなかった。和平交渉は何度も挫折してきたから、合意に達したことは驚きだった。

 

次の驚きは10月2日の国民投票。和平合意にNOと投票した人が多数となり、否決された。せっかく手にした和平を民意が退けると想像した人は、コロンビアにも世界にもほとんどいなかった。

 

3番目の驚きは国民投票から5日後、ノルウェーのノーベル平和賞委員会がフアン・マヌエル・サントス大統領の「50年を超える内戦終結への努力」を称えて、今年の平和賞を贈ると発表したことだ。あと一歩で挫折した平和への取り組みが、平和賞にふさわしいと予想した人も少なかっただろう。

 

コロンビアのノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説は二転三転、次は何が起こるか読み手を驚かせる。外から見ているとガルシア=マルケスの魔術的リアリズムの世界にも似た展開だ。

 

そんな驚きを、当のコロンビアの人々はどう受け止めているのだろう。コロンビアを代表する駐日大使に語ってもらえれば、と9月に着任したばかりのガブリエル・ドゥケ大使を招いた。

 

◎大使も驚いた国民投票 NOを前向きにとらえなおす

 

大使本人も、国民投票結果とノーベル平和賞には驚いた、と正直に語った。「NOが勝つと予想した市民はコロンビアにはほとんどいなかった。私もSi(スペイン語の「賛成」)が勝つと思っていましたから」

 

「しかし」と市民から外交官に戻って、政府の立場を説明した。「サントス大統領はNOを前向きの機会ととらえている。より包摂的で持続可能な和平としたいのです。大統領は投票後、国民からあらためて和平案への提案を聞いた。400もの提案が集まり、中には受け入れ可能な考え方もある。政府の代表団はこれらの提案を持って、ハバナに向かい、再交渉に臨むことになります」

 

「包摂的」とは和平案にNOと投票した人々も賛成できるような広がりを指すのだろう。平和がすぐに破綻しては元も子もないから「持続可能な」という2つ目の条件が必要となる。ノーベル賞をもらうサントス大統領は、ゲリラだけでなくNO派の国民をも満足させる新和平案を急いで作り上げるという難題に挑戦することになった。

 

ノーベル賞授与について大使は「全てのコロンビア国民が取り組む和平への連帯を国際社会が示してくれた。中でも内戦の犠牲者と家族を支援する意味は大きい」とその意義を読み取った。

 

◎誰が誰を標的にしているのかわからない 国家の中のミニ国家と化した武装集団

 

日本人がFARCに誘拐された事件でコロンビアは何度か取材した。この国では武器を持っているのは政府軍・警察だけではない。左翼ゲリラ、麻薬マフィア、パラミリターレス(右翼準軍事組織)、そして犯罪集団。少なくとも4種類の組織それぞれが武装し、資金を確保し、国家の中のミニ国家として人々を支配していた。対立しているはずの治安部隊や政治家と裏でつながっているとさえ、指摘された。こんな状態では、殺人や爆発、誘拐が起こっても、誰が誰を標的にしたのか、わからない。自分がいつ、どこで狙われるかわからない。

 

1991年、東芝社員2人が誘拐され、4カ月後に無事解放された事件では、2人を拘束していると主張して接触してきた相手が本物かどうかがわからなかった。身代金を払ったのに、被害者は行方不明のままというケースは無数にあった。相手に「拘束」の証拠をこれこれの方法で示せと求め、証拠を得た上で交渉を始めた、と当時、交渉にかかわった人から聞いた。

 

殺人と暴力の連鎖。終わることのない報復の応酬。だましあいと不平等。相手を信用できないそんな社会に人々は疲れ切っていた。

 

◎憎悪のあとに和解は訪れるか

 

はたして、憎悪の時代のあとに和解は訪れるのだろうか。そう聞くと大使は「まずは争いを終わらせる。それから平和を作る。2段階が必要なのです」。

 

この記者会見の前日、ボゴタの広場で平和を求める若者の集会にサントス大統領が現れ、こう述べたという。「クリスマスまでに新しい合意を達成しなければならない」

 

今年4回目のびっくりニュースを期待していいですか。「時間がたてば、それだけリスクは高くなる。だから急いで再交渉は終わらせたい。オハラ(できることなら、願わくは)、いいニュースが早く届きますように、オハラ!」

 

ドゥケ大使は外交官から市民に戻って「オハラ!」を繰り返した。


日本記者クラブ顧問 中井 良則

ゲスト / Guest

  • ガブリエル・ドゥケ / Gabriel Duque

    コロンビア / Colombia

    駐日大使 / Ambassador

研究テーマ:ノーベル平和賞

前へ 2019年02月 次へ
27
28
29
30
31
2
3
4
8
9
10
11
12
14
16
17
19
23
24
25
26
27
28
1
2
ページのTOPへ