2016年07月11日 10:30 〜 11:45 10階ホール
「参院選後の日本 民意を読む」①西田亮介 東京工業大学准教授

会見メモ

7月10日投開票の第24回参議院選挙の翌日、東工大の西田准教授が選挙結果を分析し、記者の質問に答えた。
司会 川上高志 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

若者の保守化とマスメディアの凋落

安倍晋三首相が責任ラインとした「与党で改選過半数」を確保し、「改憲勢力で3分の2」にも届いた参院選。その直後の連続会見では、新たに選挙権を得た18~19歳が与党に投票した比率が高い、との出口調査が共通の話題に上った。

 

西田亮介・東京工業大准教授は「若年世代の記憶が始まるのは極めて近年だ」と指摘した。旧民主党への政権交代やその政権運営の記憶はほぼない代わりに「2012年に安倍自民党が政権を奪還してからのプロセスの印象が強く、現状肯定イメージにつながった」との見方を示した。

 

松本正生・埼玉大学社会調査研究センター長は、将来不安をめぐる若者の意識調査で「進学」「就職」や「結婚」「子育て」に加え「老後の生活」「親の介護」という先への不安が増えている、と紹介した。「とりあえず現状がこのまま続いてほしい、という守りの志向性が強く、政治的には保守化は当然だ。シルバー民主主義に憤っていない」と分析した。

 

民進党がいち早く消費税増税の再延期を打ち出した点に、松本氏は「予定通り増税し、将来不安に責任を持つ、とのメッセージの出し方もあった」と言及した。野党共闘が成功したかどうかをめぐって「トータルのプラスマイナスをもう少し考えるべきだ」と慎重な見解を表明した。

 

メディアへの警鐘も目立った。西田氏は、ネット戦略も含めて政策論争より「イメージ政治」に傾斜する自民党に対し、野党とメディアは憲法問題の争点化に失敗したと総括。「改憲か護憲かの構図だけが生活者に突きつけられ、読み解く手がかりを与えられていない」と懸念した。

 

主権者教育が立ち遅れ、流動的で不安定な「脆弱な民意」の下で、改憲の是非を問う国民投票となれば、国政選挙に比べて規制がはるかに少ないことから「米大統領選挙型の運動になり、ある種のポピュリズムが促進されかねない」と警告した。

 

松本氏は政治を初めて認知する高校生の段階で、学年が上がるにつれ政党や国会への信頼度が下がる、との意識調査を示して「この否定的イメージを解消できずに1票の重みを説いても無理がある」と危機感を示した。マスメディアはさらに信頼度が低い、として「インターネットやSNSとの力関係は深刻だ」と述べた。

 

日本経済新聞編集委員
清水 真人

 

(※この会見は7月14日開催の松本正生・埼玉大学教授会見との統合版です)


ゲスト / Guest

  • 西田亮介 / Ryosuke Nishida

    日本 / Japan

    東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授 / Associate Professor, Tokyo University of Technology

研究テーマ:参院選後の日本 民意を読む

研究会回数:1

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