2014年09月26日 16:00 〜 17:30 10階ホール
「130兆円は誰のものか-年金運用改革を問う」①西沢和彦 日本総研上席主任研究員

会見メモ

年金運用改革のあり方を問うシリーズの第1弾。西沢氏は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革の議論の問題点として以下を指摘した。①基礎年金部分を市場運用対象とすべきではない。②損失が発生した場合に先送りせず、現世代で損失を埋め合わせる仕組みが必要。③改革は被保険者の利益のみのために行われるべきで、そもそも成長戦略の枠組で議論すべきものではない。

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「ツケを後回しにするな」西沢氏 「配分見直し議論は筋違い」小幡氏

公的年金の積立金130兆円。この巨額マネーを運用しているのが世界最大級の機関投資家・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。安全第一で国債中心の運用をしてきたが、安倍政権の成長戦略の一環として、株式への積極投資へと大きくかじを切ることになった。市場には、PKO(株価対策)としての期待も高まり、うまくいけば高いリターンが得られるが、損失が出れば、将来の年金が減ることに。


第1回のゲストの西沢さんは、政権サイドが、他の先進国ではもっと株で運用していると主張していることに反論。日本とは決定的に異なる点があると指摘した。それは、比較されているカナダやスウェーデンが株で運用しているのは、公的年金のうち、上乗せの2階部分のみ。最低保障や基礎年金としての役割を持つ1階部分は、運用損の影響は受けない。それに対し、日本は、株の損失が、1階部分の基礎年金にも影響を及ぼしてしまう。なぜか?


それは日本の基礎年金が制度として曖昧なため。基礎年金は本来何を守るのか? どういう水準をカバーするのかという、年金制度そのものの課題を議論する必要があると警鐘を鳴らす。その上で、損失が出た場合、将来世代にツケを回すのではなく、いまの高齢者から年金を抑制するなどして、いまの世代のうちに損失を処理する覚悟が必要と主張した。


2回目のゲストの小幡さんは、自らを「反アベノミクスで最も有名になった男」と紹介して会場の笑いをとりながら「年金の運用配分見直しを議論していることは、筋違い」といきなり一刀両断。


まず必要なのは、いまの低リスク運用から、どれくらいリスクを上げるのか、という大前提の判断を、130兆円のオーナーである国民に問わなければならない。そこで、もっとリスクを上げてもいいということになれば、後は、運用のプロに任せればいい。


国内株を何%まで増やすのか、などということも、外から決めることではない。なぜなら、これから株を買い増します、などという表明は、市場に手の内を見せることであり、先回りされて株価をつり上げられるだけだ。黙ってやるべきだと。この春までGPIFの運用委員を務めた経験から、マーケットの実態を踏まえた話を展開、会場の注目を集めた。


お二人の意見が共通していたのは、年金運用改革は成長戦略ではない、ということ。


年金に安全を求める国民感情と、巨額マネーを経済成長に役立てたいという政権の思惑とのギャップは大きい。


*この会見リポートは、小幡績・慶應義塾大学ビジネススクール准教授会見(9月30日開催)との統合版です。


企画委員 NHK解説委員

竹田 忠


ゲスト / Guest

  • 西沢和彦 / Kazuhiko Nishizawa

    日本 / Japan

    日本総研上席主任研究員 / Advanced senior economist, The Japan Research Institute, Limited

研究テーマ:130兆円は誰のものか-年金運用改革を問う

研究会回数:1

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