2024年03月29日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「働く人材クライシス」(9) 神野正博・社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長

会見メモ

石川県七尾市にある中核病院「恵寿総合病院」の理事長であり、全国病院協会の副会長。

2007年の能登半島地震と2011年の東日本大震災を踏まえ、災害対策を講じてきたことが奏功し、1月1日の能登半島地震では周辺地域が甚大な被害を受ける中でも医療を継続できた。

災害、働き方改革への対応はいずれも「病院が生き残るための戦略」と位置づける神野正博理事長が、この間どのような考えで、どのような対策を講じてきたのか、過疎・高齢化が進む中での地域医療のあり方などについて話した。

 

司会 猪熊律子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

 


会見リポート

未来を生き抜く地域医療とは

押川 恵理子 (東京新聞社会部)

 石川県能登地方に甚大な被害をもたらした1月1日の能登半島地震で水道や電気の供給が途絶える中、七尾市の恵寿総合病院は2日から出産や緊急手術に対応し、4日には外来も完全に再開した。「想定外」を想定し、強い病院づくりへの投資を惜しまなかったことが非常時に生きた。神野正博理事長は「目に見えない投資は大きくなるが、基本は二重化だ」と対策徹底の必要性を説いた。

 2011年の東日本大震災時に奮闘した宮城県の公立志津川病院(現・南三陸病院)の医師らから得た知見を新たな病棟づくりに生かした。海沿いに建つ病院の液状化を防ぐため地盤を改良し、建物の揺れを逃す免震構造を導入。夜間に離発着ができるヘリポートも整備した。上水は水道と井戸水の二つを確保し、断水中は井戸水を使って医療を続けた。

 設備面に加え、カルテ情報のICT化などソフト面の対策も役立った。透析患者のスマートフォンには自身の透析記録があり、転院先で情報共有できた。医師と看護師は昨年4月からiPhone(アイフォーン)で治療記録を共有し、情報交換やナースコールなどの作業も一元化。こうした効率化が、膨大な業務が押し寄せる災害医療の現場を助けた。

 ICT化を推進した背景には医師の地域偏在や長時間労働の問題がある。東京など大都市の同規模病院に比べると医師、看護師の人数は少ない。十分な医療を提供するためにICTを活用し、医師、看護師が本来業務に専念できる仕組みを整えた。4月から勤務医にも労働時間の上限規制が適用され、医療現場も「2024年問題」に直面している。従来の働き方を変えずに労働時間を短くすれば、医療の質や経営に悪影響を及ぼしうる。業務の棚卸しや効率化は不可欠で、神野理事長は「働き方改革は仕組み改革」と強調した。その舵取りは地域医療が生き抜くモデルとなるだろう。


ゲスト / Guest

  • 神野正博 / Masahiro KANNO

    社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長

研究テーマ:働く人材クライシス

研究会回数:9

ページのTOPへ