2024年03月06日 16:00 〜 17:30 10階ホール
「能登半島地震」(9) 橋本学・東京電機大学大学院特別専任教授

会見メモ

能登半島地震では地域防災計画や活断層の評価が問題になった。東京電機大学大学院で特別専任教授を務めている橋本学さんが「能登半島地震から考える科学と社会のより良い関係」と題し登壇。地震予測やリスクの伝え方、報道に求めることなどについて話した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

「科学的知見」鵜呑みに警鐘

小沢 慧一 (東京新聞社会部)

 命を守る知見として防災に用いられている地震学の研究成果。しかし、橋本氏は「研究成果とは言っても実際はぼやっとした仮説。研究者もろくに検証をしていない。そうして出来上がる社会は安全なのか」と、地震学の「科学的知見」を鵜呑みにすることへの警鐘を鳴らす。

 橋本氏は南海トラフ地震の長期評価に使われる計算式「時間予測モデル」の問題点を指摘する論文を複数発表しており、この日も長期評価を基に作成される全国地震動予測地図について言及。予測地図の「正答率」を調べたところ、2015年から9年間で震度6弱以上の揺れを観測した22地震のうち、発生確率が「高い」とされている6%以上の地域に影響があったのは9回だけだったという。

 「さすがに外しすぎている…」との印象を受けた橋本氏は「次は南海トラフだと思い込ませ、(予測地図は)罪が重い」と指摘。その上で「低確率の地域の防災が手薄になる実態があり、公表はやめた方がいい」と主張した。

 また、南海トラフの発生可能性が高まったとみなされた場合に政府が発表する「臨時情報」についても議題に挙げ、一週間の事前避難を行う「巨大地震警戒」は10回中8~9回、地震の備えを再確認する「巨大地震注意」は100回中98~99回外れる情報であると解説した。

 問題は、情報の精度がこれだけ低いにも関わらず7割以上の人が、「情報が発令されたら50%以上地震が起きる」と思っているとの調査があることだ。橋本氏は「専門家が捉える感覚と一般の人の感覚と乖離がある」とした上で「国民が地震は突発的に起きることを忘れないか懸念がある」と臨時情報の仕組みを批判した。

 記者たちには地震学の成果には大きな不確定性があることを認識する必要があり、情報を無批判に伝え、社会の期待をあおることは謹んでほしいと訴える。そして「科学者が言うことにも懐疑心を持って臨んで」と呼びかけた。

 能登半島地震についても言及し、石川県は震災前に今回地震を起こした活断層を想定した津波浸水想定をしていたにも関わらず、地震の揺れに対してはこの活断層を想定をしていなかった。橋本氏はこの点を疑問視し「メディアはその理由を深掘りするべきだ」と注文を付けた。


ゲスト / Guest

  • 橋本学 / Manabu HASHIMOTO

    東京電機大学大学院特別専任教授

研究テーマ:能登半島地震

研究会回数:9

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