2024年03月14日 13:00 〜 14:30 9階会見場
「働く人材クライシス」(4) 結城康博・淑徳大学教授

会見メモ

社会保障論、社会福祉学が専門。「団塊の世代がすべて85歳以上になる2035年までの10年が勝負」「介護人材不足の中では地域包括ケアシステムは机上の空論になる。見直すべきかどうか徹底した議論が必要」。

今後とるべき政策を、財源のあり方も含め提言した。

 

司会 迫田朋子 日本記者クラブ企画委員

 


会見リポート

将来に禍根残す失策

内田 泰 (共同通信社編集委員)

 介護保険制度の危機が叫ばれて久しい。介護現場での実務経験もある淑徳大の結城康博教授は、手をこまねいていると事態はさらに深刻化すると警鐘を鳴らす。

 会見では、今から2035年までが「勝負の10年」と強調。35年には団塊世代が全員85歳を超え、重度の要介護高齢者が膨大な人数になる。大胆な政策転換を図らないと、担い手となる介護人材の確保が追い付きそうにない。放置すれば「介護崩壊が必ず起きる」。

 24年度の介護報酬改定では、厚生労働省が訪問介護の基本報酬の引き下げを決めたが、これを厳しく批判した。「将来に禍根を残す失策」と言い切った。

 訪問介護は在宅介護を支える基本的なサービスだ。小規模な事業者も多い。報酬引き下げは事業展開の機運を失わせると危惧する。厚労省は24年度中にも臨時改定に乗り出し、せめてプラスマイナスゼロに見直すべきだと提案した。さもないと、国が「要介護になっても住み慣れた地域で最期まで」とうたう「地域包括ケアシステム」は机上の空論になってしまうと憂えた。

 会見で披露したさまざまな政策提言の中には、介護給付費の公費負担割合(現行5割)を6~7割に引き上げるといった難易度の高いアイデアも含まれるが、強い危機感の表れと受け止めるべきなのだろう。

 繰り返し指摘したのが、介護は仕事との両立を支える面で経済活動への「投資」であり、「成長産業」にもなり得るという視点だ。中国などアジア諸国はこれから急速に老いてゆく。高齢化先進国である日本がICTを駆使した先端的な介護技術を開発すれば輸出産業に仕立てることができる可能性があるとも述べた。

 介護保険の課題を挙げるときりはないが、ケアワークをポジティブに捉え直す意識転換が大事なのだと再認識させられた。


ゲスト / Guest

  • 結城康博 / Yasuhiro YUUKI

    淑徳大学教授 / Professor, Shukutoku University

研究テーマ:働く人材クライシス

研究会回数:4

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