2024年03月19日 16:15 〜 17:45 10階ホール
「中国で何が起きているのか」(11) 高原明生・東京大学教授

会見メモ

40年にわたって中国の政治と外交を第一線で研究してきた高原明生さんが、3月末で東京大学を退官するのを前に登壇。「習政権下の中国政治とその歴史的背景」をテーマに話した。

 

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

大きな変革の予感

大熊 雄一郎 (共同通信社外信部)

 中国共産党は政治、経済、外交を含むあらゆる分野で統制を強めている。毛沢東時代へと逆流するかのように個人独裁の傾向を強める習近平国家主席は、大国をどこへ導こうとしているのか。40年にわたり中国研究の第一線に立つ高原氏は歴史の伏線を丁寧に読み解き「いずれ大きな変革が始まる」と予言した。

 最高実力者だった故鄧小平氏は党に対する国民の支持をつなぎ留めるために改革・開放政策を進め、統治の制度化や経済の市場化を進めた。支配の正統性の根拠を社会主義から経済成長へと切り替えた結果、党の存在意義は低下。危機感を抱く習近平指導部は党の支配を強めており、「統制強化の局面を担う共産党政権」(高原氏)とも言える。

 近代化を進めれば社会は活気づくが、党の介入が強まれば停滞する。高原氏は、中国が近代化と一党支配という両立し得ない「矛盾」を抱えていると指摘。「習氏の次の政権はグリップを緩める」と予測する。

 習氏の権力基盤は盤石に見える。だが①党と政府という二大官僚機構②党と民間企業③中央政府と地方政府は今も最適な関係を築けておらず、政権運営に一定の緊張をもたらしている。高原氏は習氏が置かれた状況を、虎の背にまたがって走り出したら下りられない「騎虎の勢い」と表現する。

 米国は中国に変革を促す「関与政策」を続けてきたが、民主化の期待は萎んだ。ただ中国は変わらなかったわけではない。むしろ高原氏が研究を始めたころに比べ、めまぐるしく変化した。「大きいことはいいことだ」と高成長を追い求めてきた時代は転換期にあり、人々の意識に変化の兆しがある。「ポスト近代」への流れが始まると見通す。

 冷静沈着に中国論を展開する高原氏が声のトーンを強めたのは、日本の中国研究に言及したときだ。中国政治を教える大学が少なすぎるという。「最もやるべきことは研究インフラを整え、ポストを増やすことだと声を大にして申したい」


ゲスト / Guest

  • 高原明生 / Akio TAKAHARA

    東京大学教授 / Professor , Tokyo University

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:11

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