2024年03月27日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「働く人材クライシス」(8) 冨山和彦・経営共創基盤(IGPI)グループ会長

会見メモ

人手不足問題の論客としても知られる経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦さんが「労働供給制約の時代の労働(市場)政策」と題して登壇した。

「賃金上昇と成長(生産性向上)の黄金の好循環期に入るか、スタグフレーションという新たな、もっと辛い停滞期に入るか。いまがその分かれ目」。

2010年代初頭から人手が不足してきた中でも賃金上昇に結びつけられなかった背景を「デフレによる人余りの時代の刷り込み」「閉塞感の中でも安定を重視」してきた「昭和とデフレの呪縛」にあると解説。構造的、恒久的な人手不足から脱却するためには、賃金上昇、人的資本投資(リスキリング、アップスキリング)強化、ホワイト化など攻めの労働政策に転換していくことが必要になるとした。

 

 

 司会 菅野幹雄 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

「昭和の刷り込み」を断ち切れ

浅山 章 (日本経済新聞社「日経グローカル」編集長)

 自治体の首長のもとには連日のように業界団体が面会に訪れる。支局勤務時、実情を知ろうとできるだけ同席取材したが、多くは「一層の支援」を求める経営者。自社の業績が好調な社長も「同業者を見捨てろとは言えない」と業界の秩序維持を求め、公費による経営支援が後押しする。

 企業再生で知られる冨山和彦氏は、地方のバス会社などローカル企業もよみがえらせている。「男女別のトイレや更衣室を整備。投資をして給与も出生率も高くなっている」といい、「人手不足という大転換期。M&Aを進めてブラックな会社から、給料が高く生産性の高い会社へ集団で移るとよい」と説く。

 冨山氏は地域専門誌「日経グローカル」の巻頭提言で、地域に根ざしたローカルなL型企業の重要性を繰り返し指摘してきた。その経営が厳しい場合、M&Aによる新陳代謝が従業員も地域も幸せにすることは誰もが理解できるはずだ。しかし、「閉塞感はあっても安定重視でいくという選択をした」ことが今につながっている。

 背景のひとつが、会見で何度も出た「刷り込み」だろう。少子化・高齢化で次元の違う人手不足の時代がきたのに、ライドシェアの解禁議論では「運転手が供給過剰になりワーキングプアになるという議論が出る」といい、「昭和とデフレの刷り込みを断ち切ることが必要」と強調した。

 質疑応答ではホワイトカラーの意識改革にも話が及び、「リスキリング後はノンデスクワークの仕事もいい。バスの運転手は大歓迎。社内調整ばかりやるよりおもしろいでしょう」などと語った。労働政策を主題に労組や新卒採用、国土の縮減など話は多岐に及んだが、「既存の仕組みを変えないとデフレよりつらいスタグフレーションになる。今はその天国と地獄の境目」という言葉が耳に残った。


ゲスト / Guest

  • 冨山和彦 / Kazuhiko TOYAMA

    経営共創基盤(IGPI)グループ会長

研究テーマ:働く人材クライシス

研究会回数:8

ページのTOPへ