2024年03月21日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「大学どこへ」(10) 石村和彦・産業技術総合研究所理事長

会見メモ

旭硝子(現AGC)社長、会長を経て、2020年に産業総合研究所理事長に就任した。2018年から経済同友会副代表幹事も務める。

「日本の産業競争力の低下に危機感を抱いてきた」。データをもとに現状と要因を示した上で、国立の研究所である産総研の取り組み、人材の供給元となる大学に期待することを話した。

産業競争力強化の鍵は「イノベーションの創出。そのためにはダイバーシティを高め、オープンイノベーションを進めることが必要になる」。大学に期待することの一つに「基礎研究や長期的研究」を挙げた。「製品を開発し、社会に実装し、利益を生むことが企業の役割。基礎研究を担うことは難しい」「国費や寄付で行われることが望ましい」

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)

 


会見リポート

「出る杭は引き抜いて育てる」

安井 孝之 (Gemba Lab代表、朝日新聞出身)

 旭硝子(現AGC)の元社長だけに会見は日本の産業競争力の低下の実態を示すことから始まった。1990年代初頭以降に米国のデジタル投資額は3倍に増えているのに日本はほぼ横ばい。産業のデジタル化が一気に進んだ時代に日本はその流れについていけなかった。

 産業競争力を高めるイノベーションを生み出すことが日本の課題だが、そのためには「ダイバーシティを高め、オープンイノベーションを進めること」と言う。現在、理事長を務める産総研は大学とも連携し、産官学のイノベーションエコシステムづくりを進めている。石村氏が企業にトップセールをし、すでに77社に連携を呼びかけた。

 産学連携を進めるための課題は「産学の間に人材のミスマッチがあること」。大学の研究者は論文の提出といったアカデミア志向が強いことや、産業界が求めるAI人材が大学には少ないことなどがミスマッチの原因である。

 大学だけに問題があるかというとそうでもない。バブル崩壊前までは日本の大企業は元々博士号取得者の採用は多くなく、研究の自前主義が主流だった。むしろ大学よりも社内の研究の方が優れているという自信もあった。だが企業の中では「出る杭」は育ちにくく、限界もあった。ようやく自前主義から脱却し、大学と真摯に付き合う必要に迫られている。

 大学もつらい時代である。産業界からはオープンイノベーションの連携先としての貢献、つまり新技術の社会実装への協力を求められる。一方で「企業が基礎研究をするのは難しい。大学にはしっかり基礎研究、長期的研究をしてほしい」(石村氏)と期待される。そんな二刀流に取り組まねばならない時代なのだ。

 石村氏は大学に「天才が生まれるような『出る杭は引き抜いて育てる』教育を」と期待しているが、これは産業界も真っ先に取り組まねばならないことである。


ゲスト / Guest

  • 石村和彦 / Kazuhiko ISHIMURA

    日本 / Japan

    産業技術総合研究所理事長兼最高執行責任者 / President and CEO, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

研究テーマ:大学どこへ

研究会回数:10

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