2016年12月02日 14:00 〜 15:15 10階ホール
ポール・シェアード S&Pグローバル エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・エコノミスト 会見

会見メモ

米国EU日本中国と世界を一周し経済への懸念を巧みな日本語で解説。「トランプの財政出動はクルーグマンら民主党系の政策と似ている」。日本については「潜在成長率2%をめざすなら移民を真剣に考えなければならない」と労働人口を増やす必要を説いた。

 

司会 実哲也 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

アベノミクス、「デフレ脱却まで続けることが大事」

安井 孝之 (企画委員 朝日新聞社編集委員)

流暢な日本語での会見だった。大阪大学で教鞭をとり、日本銀行金融研究所客員研究員を務めるなど日本経済分析の専門家。野村証券やリーマン・ブラザーズのチーフ・エコノミストも務め、日本には10年以上の滞在経験を持つ。

 

トランプ政権の誕生、英国のEU離脱、中国経済の行方など話題は多岐に及んだ。日本については、やはりアベノミクスの評価が気になるが、「通常の常識的な経済政策」だと指摘した。3本の矢のうち、1本目と2本目の矢は異次元の金融緩和と機動的な財政出動というマクロ経済政策だが、需要不足のデフレ状態から脱出するには、教科書的な対応だという。

 

ここにきて限界論が指摘されることが多い日銀の金融政策についても、黒田日銀の「コペルニクス革命」と評価する姿勢は変わらない。白川日銀時代の、金融政策だけではデフレ脱却はできないというかつての日銀の主張について、「普通の経済学者やエコノミストには分かりにくかった」とやんわり批判した。

 

そんな革命的な金融政策を実施しているのに、なぜ日本はデフレから抜け出せないのか。シェアード氏はその理由を、デフレが続くという根強い「デフレ期待」が日本で定着したことと、財政政策の手助けがなかったことを挙げた。特に2014年4月の消費税率上げ(5%から8%)で「マイルドな不況となった」と指摘。日本の財政政策はすぐに緊縮に向かいがちで、政策効果を低減させているという主張だ。

 

厳しい財政状態なのに積極的な財政出動を続けるべきなのかという質問に対しても、「財政再建の第一歩はデフレ脱却だ」と語った。デフレから抜け出し、景気が上向けば税収も増え、財政再建への道も見えてくる、という楽観的な見通しが前提となっている。「デフレ脱却への滑走路は長い。積極的な金融、財政政策は続けることが大事」とアベノミクスの継続を求めた。その発言は、いわば「リフレ派」の主張と重なる。

 

日本において「リフレ派」への評判は必ずしも良くない。だが、シェアード氏の、淡々と数字を挙げながらの学者然とした説明ぶりを聞いていると、うなずくことが実は多かった。未来に対して悲観論に傾きがちな経済報道のクセが、経済政策への評価を少しゆがめているのではないかと自問自答した。


ゲスト / Guest

  • ポール・シェアード / Paul Sheard

    アメリカ / USA

    S&Pグローバル エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・エコノミスト / Executive Vice President and Chief Economist, S&P Global

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