2016年12月01日 14:00 〜 15:00 10階ホール
中尾武彦 アジア開発銀行(ADB)総裁 会見

会見メモ

16年11月、総裁に再任されたばかり。「アジア経済には長期的停滞論は当てはまらない」と前向きな評価。また「TPPがたとえ実現しなくても、アジア全体ではASEANなどで貿易の自由化が進んでおり、決定的なダメージにはならない」との見方を示した。

 

司会 実哲也 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

再び「アジアの時代」が到来する

八牧 浩行(時事通信出身)

 

「21世紀はアジアの世紀」と言われるが、このフレーズを実感する会見だった。前任の黒田東彦氏が任期途中で日銀総裁に転出した後を引き継いで3年半。アジア開発銀行(ADB)のエコノミスト多数が域内加盟国の経済状況を調査し、自身も各国を精力的に巡回しているだけに説得力があった。「世界は先進国を中心に長期停滞期に入ったが、アジアは当てはまらない」と地域の明るい将来を展望した。

 

アジアの開発途上国は全体として堅調な成長ペースを維持、GDP(国内総生産)成長率は2016年、2017年ともに5.7%となる。中国経済はやや減速するものの6%台半ばを維持。自動車販売年間2000万台とサービスと消費が主導する経済に移行する。都市化が進行する一方、競争力が強い分野も出現しつつあり、日本の1990年代のようなバブル崩壊はない。人口増加が著しいインドがモディ政権の経済重視志向もあって7%台の成長を堅持。インドネシア、パキスタン、バングデシュ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーなども5~6%の成長が続く――。

 

2008年に欧米を襲ったリーマンショック不況の際、欧米市場との取引に依存しているアジア開発途上国にも大打撃となり、成長も急減するとの見方が有力だった。ところがアジア域内での取引が活発化したため杞憂に終わったと分析。アジアの成長の要因として、インフラへの投資、教育や保健など人的資本への投資、マクロ経済の安定、開放的な貿易・投資体制、民間セクターの促進、政府のガバナンス、将来ビジョン・戦略、政治や治安の安定などを列挙した。

 

アジアは19世紀の初めまで世界のGDPの半分以上を占めていたが、その後凋落。現在3割程度に回復したが、2050年には再び50%以上に躍進するという。世界におけるアジアの存在や役割が高まり、世界で突出した成長を続けるアジアにはインフラ関連だけでも膨大な資金需要がある。

 

そこで注目されるのが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係。「資金需要が膨大なアジアでは補完的関係にあり、ライバルではない」とキッパリ。既に協調融資などで連携、パキスタン、バングラデシュ向けなどで実績も上がっており、「今後とも協力し合っていきたい」と強調した。

 

来年5月に、ADB創立50周年記念総会が横浜で開かれる。向こう5年間の再任も決まった中尾さんは「発展するアジアをけん引するADBで働くことは光栄に思う」と力を込めた。


ゲスト / Guest

  • 中尾武彦 / Takehiko Nakao

    アジア開発銀行(ADB)総裁 / President, Asian Development Bank (ADB)

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