2016年11月11日 15:00 〜 16:30 10階ホール
AP通信社 ピュリツァー賞受賞者

会見メモ

インドネシアの漁船で続くミャンマー人の奴隷労働を女性記者チームが特ダネ報道。魚は米国の食卓にも並んでいた。2000人が解放され米国の法律が改正された。「船の動きはネットで追跡できる。日本の企業も関わっていた」

 

左からテッド・アンソニー(Ted Anthony)アジア太平洋ニュースディレクター、エスター・トゥサン(Esther Htusan)ミャンマー特派員、マジー・メイソン(Margie Mason)アジア特派員・駐ジャカルタ、マーサ・メンドーザ(Martha Mendoza)アジア調査報道記者・駐バンコク

司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
通訳 長井鞠子(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

AP女性記者たちが語った「志の高さ」

坂東 賢治 (企画委員 毎日新聞社専門編集委員)

インドネシア東部、アラフラ海の島に奴隷のような労働を強制されているミャンマー人船員がいた。その存在を突き止め、各国政府を動かして2000人の解放につなげた。調査報道の鑑のような記事でピュリツァー賞を受賞した5人の女性記者のうち3人が、会見で取材の詳細を紹介してくれた。

 

途上国では「奴隷労働」の存在はまれではない。ジャカルタ駐在のマジー・メイソン記者は情報を得た時、どんな切り口で関心を呼ぶかを考えたという。そこで①当事者から直接、話を聞く②米国にも魚介類が流れ込んでいることを証明する――という2つの目標を立てた。

 

現地を訪れたミャンマー特派員のエスター・トゥサンさんが監禁されていた船員からミャンマー語で話を聞き、島に停泊する船の名や番号などを片っ端からメモした。見知らぬ外国人の存在がうわさになり、危ない思いもしたという。

 

現在、バンコクに駐在するマーサ・メンドーザ記者はこの記録を元に専門のサイトで船の運航状況を追跡し、税関当局などへの取材も重ねてバンコク経由で米国にも水産物が上陸している実態をつかんだ。メンドーザ記者によると、日本の大手水産会社の名前も浮かんだという。

 

通信社が調査報道に力を入れ始めていることも興味深い。アジア太平洋ニュースディレクターのテッド・アンソニー氏によれば、昨年、AP通信のツイッターのアカウント上で最も多くシェアされたのが今回の調査報道だった。

 

3人の記者は一般ニュース取材と平行して調査報道を続けたという。インターネット時代にも志の高い記者は少なくない。民主化を果たして間もないミャンマー出身のトゥサンさんが「ジャーナリストは社会の変革者だ」と話したことも印象的で、同業者としてさまざまな刺激を受けた会見だった。


ゲスト / Guest

  • AP通信社 ピュリツァー賞受賞者

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