2016年10月21日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「<日銀検証>を検証する」②白井さゆり 慶應大学教授

会見メモ

マイナス金利導入に反対票を投じた元日銀審議委員。9月発表の新政策についても「てんこ盛り。複雑さが増して透明性が低下した」と厳しい。ではどうするか。物価上昇2%目標の2段階アプローチなど持論を熱く展開。「日銀は市場向けでなく、企業や家計に理解を求める説明責任を」
司会 軽部謙介 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

今後の課題は「2%への理解」 持続可能な金融政策へ持論展開

軽部 謙介 (企画委員 時事通信社解説委員)

ゲストブックに「真実一路」と揮ごうした控室で、「これ、私の性格だから」と笑った。深川育ちの江戸っ子。会見本番では「イールドカーブのフラット化」「インプリシット・テーパリング」といった横文字の経済用語がポンポンと口をつき、難解な金融論がリズムのいいテンポで展開された。

 

「〈日銀検証〉を検証する」シリーズの第2弾でご登場願った白井さんの演題は、「日本銀行の量的・質的金融緩和政策の変遷」。金融政策の決定に直接携わった立場から黒田東彦総裁が就任した2013年4月以降の政策を検証し、「なぜ日本の物価は上がらないのか」「今年9月の新政策には何が欠けているのか」などの問題点でご自身の考えを示していった。

 

今年1月の金融政策決定会合で決まったマイナス金利導入時、白井さんは反対票を投じている。ご自身は著書の中で「時期尚早と考えたから」と述べているが、この日も市場の反応、副作用への批判など例を挙げながら懐疑的な姿勢を示した。

 

さらに強い疑問を表明したのは今年9月の誘導目標の変更。「複雑さや不透明さが高まった」と批判する白井さんは、今回の追加緩和を「てんこ盛り」と表現した。国債市場のゆがみが進む、信用配分のゆがみが進む、長短金利操作が難しくなる―という3つのリスクを列挙して、これまでの政策の副作用を認めながらそれを主要な追加緩和手段にする矛盾を指摘した。

 

白井さんによると、国民の多くが物価上昇を容認していない中で、どのように2%目標を理解してもらうのかが今後大きな問題になってくるという。これは異次元緩和の核心である「予想インフレ率」の問題に直結するが、「市場参加者向けのコミュニケーションだけでは意味がない」として、家計や企業に向けた日銀の説明能力の向上を訴えた。

 

最後に「物価目標をまず1%に設定してその達成後2%を目指すか議論する」という自説の二段階アプローチ論を披露。会見は終始熱のこもったものとなった。


ゲスト / Guest

  • 白井さゆり / Sayuri Shirai

    日本 / Japan

    慶應大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:<日銀検証>を検証する

研究会回数:2

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