2016年07月15日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「タイ情勢」玉田芳史 京都大学大学院教授

会見メモ

京都大学大学院の玉田教授が8月7日にタイで行われる新憲法草案の賛否を問う国民投票や軍事政権の実態について話し、記者の質問に答えた。
司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

民主主義に逆行するタイ 混迷の構図を斬る 

小暮 哲夫 (朝日新聞社国際報道部次長)

2年前の軍事クーデターの後、軍政が続くタイ。8月7日に予定する新憲法案の国民投票は、本来なら、民政復帰に向けた最も重要なプロセスとなるはずだ。しかし、憲法案は、この10年来、繰り返し試みられた「タクシン派つぶし」を今度こそ達成しようとするのが目的で、民主化の針を逆に戻す「改悪」の中身である。そんな構図を明快に切れ味鋭く読み解いた。

 

デモ隊、裁判所、軍隊と、タクシン派つぶしのために出てくるアクターはいつも同じ。政治的に有利な状況を意図的につくりだし、しばしば選挙結果を無視する。そして、民主主義に逆行する憲法案について、議論することすら封じながら、国民投票という民主的な形式で問うおかしさ。そんな状況を説明する玉田氏の言葉の端々から、選挙で選ばれた代表が担うのが民主政治の原則という「われわれの常識とは違うレベルでの闘争」が続く理不尽さに強い懸念がにじみ出ていた。

 

この新憲法が施行された場合、当初の5年間は、国会で軍の任命議員が3分の1を占め、われわれが民主化の途上にあるとみるミャンマーの4分の1を上回ってしまうこと。タイの「政局の危機」とは、自らの側に有利な状況を作り出すための「人為的なもの」にすぎず、おそらく「これからも人為的な危機が続いていく」とみられること。こんな指摘に、昨今のタイ政治の深刻さをあらためて気づかされた。

 

王室の後ろ盾を得た都市の富裕層と財閥、軍という既得権益勢力と、大衆に基盤を持つタクシン派の対立が招いてきた政治の混迷は、結局のところ、どうしたら収拾できるのか。高齢の国王が「調停役」を果たすのが難しくなってきた現実が、出口を見えにくくしている。これに対する玉田氏の「富裕層や経済界が目を覚まさない限り、(問題の解決は)無理である」という見方は、選挙結果を無視した「政治危機」が繰り返されてきた経緯を解説してもらった後では、より説得力があった。

 

世界有数の生産拠点を持つ日本企業や、6万4千人を超える在留邦人にとっても、タイの政情は大きな関心事だ。タイ社会を今後も報じていくうえで、示唆に富む記者会見となった。


ゲスト / Guest

  • 玉田芳史 / Yoshifumi Tamada

    日本 / Japan

    京都大学大学院教授 / Professor, Kyoto University Graduate School

研究テーマ:タイ情勢

ページのTOPへ