2016年05月09日 00:00 〜 00:00
高知県 南海トラフ地震対策取材団

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会見リポート

減災への知恵、住民と共に磨く

高橋 直子 (新潟日報社論説編集委員)

内閣府が示した南海トラフ巨大地震の新たな被害想定で、全国一の津波高が想定される高知県を総勢8人で訪ねた。2012年3月に新想定が公表されて以来、現場ではさまざまな対策が進んでいた。

 

34・4メートルという全国一の津波高を示された黒潮町は、「避難放棄者を出さない」ことを目標に対策を始めた。町は200人弱の全職員を防災担当とし、住民と一緒に避難設備を点検、必要な津波避難タワーなどを整備した。浸水エリアでは、家族構成、避難方法、住宅の耐震性などを書き込んだ「戸別津波避難カルテ」を作った。対象は3791世帯、回収率100%を誇る。

 

新想定は地価の暴落といった「実害」ももたらし、震災前過疎が危惧された。これをバネに、町は缶詰工場を建設。アレルギー対応や食味を追求した非常食を津波高の「34M」を記した缶詰にして売り出し、防災の町をアピールした。18人の雇用を生み、さらに拡充する計画だ。

 

「後ろ向きになるな、前を向け」と職員に指示し続けてきた大西勝也町長は、「新想定があったから、結果としていい町ができた、となれば、ありがたい」と話す。

 

カツオの一本釣りで知られる中土佐町は、円筒状の津波避難タワーを建設した。タワーは「だるま朝日」が昇る絶景ポイントの海に面する。津波が来たら住民は海に向かって逃げる形になるが、集落まで長いスロープを伸ばし避難しやすい設計にした。「このタワーなら住民全員が助かる」と池田洋光町長は胸を張る。

 

タワーは日ごろから住民が散歩などに使い、町は観光振興にも生かす計画だ。「災害のことばかり考えていたら生きていけないですよ」と池田町長。海辺では道の駅などの観光施設建設も控えている。

 

衝撃的な想定にひるまず、命を守り抜くすべや地域の価値を、住民と共に考え、磨く。それぞれの町の取り組みは、人口減少に悩む全国の町でも応用できると感じた。


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