2016年04月25日 15:00 〜 16:00 10階ホール
「チェンジ・メーカーズに聞く」④山口豪 日産自動車副社長

会見メモ

日産の山口副社長が同社の自動運転技術開発について話し、記者の質問に答えた。
※使用した資料はこちら
司会 安井孝之 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

着々と進む自動運転技術 環境と安全、2つのゼロへ

石原 彰 (時事通信社編集局編集委員)

皆さんは、日産自動車の「リーフ」をはじめとする電気自動車(EV)にお乗りになったことがあるだろうか? バッテリー+モーター駆動による滑らかな加速と静かな走行音は「未来の乗り物感」満点で、走行中はCO2を排出せず、航続距離は最新モデルで280㎞を誇っている。

 

もう1つの最新技術である半自動運転(いわゆるアダプティブ・クルーズ・コントロールなど)はどうだろう。各社から販売されているニューモデルには標準装備されているものもあり、高速道路を使った長距離運転などで一度体験すると、病みつきになる程便利な機能である。

 

日産自動車の山口豪副社長によると、現在同社が開発中の自動運転技術は、その2つを融合、進化させることをベースとし、今や実用化一歩手前のところまで来ているという。つまり、「環境面」では電気自動車を開発することによるゼロエミッション、そして「安全面」では自動運転を主とする予防・衝突安全技術を開発することによる死亡事故ゼロという2つの「ゼロ」を達成すること=日産の最新モビリティなのである。

 

さて、自動運転が実現されると、運転する楽しみ(ドライビングプレジャー)がなくなってしまうのでは?と危惧される方も多いと思う。山口副社長によると、日産が目指す自動運転の価値は、安全(交通事故削減)、ストレスフリー(渋滞や駐車時)、フリータイム(走行中に運転以外のことができる、実現はかなり先)にあり、人がクルマを運転する楽しみという部分はきちんと残していくので、全く心配はいらないという。

 

重要なのは、プライオリティが最も高い安全面で、自動運転のための4つの分野、つまり、センシング(目)、認識(理解する脳)、判断(計画する脳)、操作(手足)については技術的にすでに人間を超えているという。そのためカメラやレーダーなど各種センサーを搭載した最新の人工知能付き自動運転車は、周囲360度全てを認識することで、より安全な運転支援を行うことが可能になった。会場では、公道における実証実験で全く問題なく走行している実験車(ベース車両はリーフ)のビデオも披露された。

 

日産ではこうした自動運転技術の市販車へのフィードバックを2020年までに段階的に導入する計画で、まず16年には渋滞時などに単一レーンでの使用が可能になり、18年には高速道路のレーンチェンジができるなど複数レーンにも対応、20年には交差点のある市街地など一般路での走行に対応できるようになる予定だ。

 

これにより、日産の将来のモビリティビジョンである「全ての人へのモビリティ」に近づいていくわけであるが、実は筆者は昨年、独メルセデス・ベンツが開発中の自動運転車「F015ラグジュアリー・イン・モーション」に試乗できる5人の日本の報道陣の一人として、サンフランシスコ市内で実際に乗ることができた。興味深いのは自動運転に対するアプローチの方法が日産とは少し異なっていた点で、開発の目的は「エグゼクティブにつきものの移動時間というロスを無くすため」というものだったのだ。クルマの詳細は省くが、さすが超高性能車を多数製造し、速度無制限の道路を高速移動して時間を金で買うというお国柄。目的が明確なのだ。メルセデスも日産も、自動運転の分野でトップを走るメーカーではあるが、それぞれがいろんな方法で開発を行っている様子はとても面白いと思った次第である。

 

面白いといえば、最後の質問で、レーシングカーのF1で人と自動運転車が競争したら、どちらが勝利するのか?というのがあった。山口副社長は即座に「自動運転が勝ちますよ」と答えたのだ。最近ニュースで話題になった将棋や囲碁だけでなく、クルマもか…とちょっと寂しい気持ちになったものだが、続いて「自動運転はそっちの方向には向かっていませんから」とも付け加えてくれた。そうそう、日産が目指す自動運転のチェッカーフラッグは「環境」と「安全」なのだから。


ゲスト / Guest

  • 山口豪 / Tsuyoshi Yamaguchi

    日本 / Japan

    日産自動車副社長 / Executive Vice President of Alliance Technology Development, Nissan Motor Co., Ltd.

研究テーマ:チェンジ・メーカーズに聞く

研究会回数:4

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