2015年12月04日 14:00 〜 15:30 9階会見場
研究会「日韓関係の検証と展望」 木宮正史・東京大学大学院総合文化研究科教授

会見メモ

東京大学大学院総合文化研究科の木宮正史教授が戦後の日韓関係と今後の展望について話し、記者の質問に答えた。
司会 山本勇二 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

日韓50年の構造変化、そして未来へ

阪堂 博之 (共同通信編集委員)

日韓国交正常化50周年を締めくくる会見となった。A4用紙6枚に上るレジュメは緻密な内容で、全てを紹介できないが、1965年以来の「構造変容」(構造変化)をキーワードに日韓関係を読み解き、過去・現在・未来について重要な視点が示された。

 

まず、日韓関係を見る視座として▼地政学▼歴史▼冷戦▼経済―の4つを挙げ「地政学=冷戦=経済>>歴史」だった1965年体制が50年間で「地政学と歴史がせめぎ合う」現状になったと説明。こうした構造変化は具体的には①水平化②均質化③多様化・多層化④双方向化―だと分析した。

 

①は日韓の垂直的な力関係、分業関係から「パワーにおける相対的な対等化」への変化、②は韓国の経済発展と民主化による「市場民主主義という価値観の共有」への変化、③は日本語を共通言語とし「日韓癒着」とも言われた政治経済エリート主導の日韓関係から「社会・文化領域を含む市民社会に基盤を置く日韓関係」への変化、④は韓国の対日関心度が日本の対韓関心度をはるかに上回っていた状況から日韓双方の関心度が均衡化した変化、なのだという。

 

この構造変化が日韓関係悪化の背景にあるため「どのような政治指導者が担ったとしても悪化を防ぐことを期待するのは難しかったかもしれない」との認識を示した。

 

構造変化は米中両国をめぐる日韓関係にも大きな影響を与えているが、何より日韓双方が2国間問題解決への「インセンティブを持てなくなってきている」、つまり2国間問題の形式的解決が試みられたとしても「関係改善につながるとは言えないかもしれない」との悲観的な見方を示した。現在、相手との関係改善の必要性を訴える意見が韓国には多く、日本には少ない。「韓国にそこまで配慮する必要があるのか」という意見が日本で出てきている現状も紹介した。

 

だが、絶望はしていない。未来を見すえれば「知恵を働かせることによって、構造変容への対応も異なる選択ができるはず」だと強調。たとえば、慰安婦問題を「日本対韓国」という図式ではなく「戦時下における女性の人権侵害」という問題意識として共有し「その解決に、それ以外の問題も含めて共同で取り組むというアプローチは可能ではないか」と提案した。

 

国際関係の中での日韓関係は「国際公共財」として重要で、とりわけ日韓関係の「層の厚さ」「交流の広がり」といった50年間で積み上げてきた財産をいかに生かすべきか、と問いかけた。

 

「『相手は変わるはずはないと諦めるのではなく』『相手に変わってもらうためには、自分が何をすることが重要なのか』という戦略的な視点から、日韓の政府、社会が共に日韓関係にアプローチすることが重要ではないか」。日韓関係を見つめ続ける日本人研究者が最も訴えたかったのは、このことだろう。肯定的な未来に向けた渾身の提言と受け止めた。


ゲスト / Guest

  • 木宮正史 / Tadashi KIMIYA

    日本 / Japan

    東京大学大学院総合文化研究科教授 / Professor, Graduate School, Tokyo University

研究テーマ:日韓関係の検証と展望

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