2015年09月25日 12:00 〜 13:30 10階ホール
トンプソン NYタイムズ社長兼CEO 昼食会

会見メモ

ニューヨーク・タイムズのマーク・トンプソン社長兼CEOが「Transitioning to a Digital and Mobile World」というテーマで話し、記者の質問に答えた。
司会 西村陽一 日本記者クラブ企画委員長(朝日新聞)
通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)

会見詳録(文字起こし)英文


会見リポート

収益の核心は良質な報道

伊藤 俊行 (読売新聞メディア局編集委員)

自社のブランド力に対する揺るぎない自信が、巨体から発せられる言葉の端々に満ちていた。

 

世界の新聞社が「紙」と「デジタル」の間で新たなビジネスモデルの模索に苦戦する中、この5年でデジタルの年間収入を2億ドルから4億ドルに倍増し、今年5月にはデジタル購読者数が100万を超え、約110万の紙の購読者の9割がデジタルも利用するという話を聞けば、その自信にも得心がいく。

 

米国の新聞経営の「弱点」と言われてきた広告偏重の収益構造からも脱し、2012年に新聞販売とデジタル購読の収入の合計が広告収入を上回り、「この潮流は今後も拡大していく」と見通した。情報発信では「デジタル第一」を徹底しながらも、「最も忠実で価値が高いのは紙の読者」と言い切ったように、〈紙かデジタルか〉の二者択一でなく、〈紙もデジタルも〉の二兎を追う姿勢が鮮明だった。

 

無論、日本の新聞とは置かれた環境が違う。市場を国外に広げるうえでは英語が母国語のメディアの方が有利だろう。「消費者がお金を払ってでもデジタルのコンテンツを得ようと考える国は、まだ米国と英国だけ」とのトンプソン氏の現状分析が正しければ、日本の新聞がデジタルで安定収入を得られるまでには、なお時間がかかるのかもしれない。

 

そうした違いはあっても、変化が予測困難で速い時代には「実験の精神」が大切だとの主張には説得力があった。良質な報道がブランド力の核心だと強調する一方、「最高のジャーナリズムだけでは不十分」で、「こちらから読者を探しに行く」ためにも、デジタルのスキルを身に付け、広告やマーケティングとも連携した新たな記者像が求められているとの指摘は、いまだ「紙」中心の発想が強い身には、新鮮に響いた。


ゲスト / Guest

  • マーク・トンプソン / Mark Thompson

    アメリカ / USA

    ニューヨーク・タイムズ社長兼CEO / President and CEO of the New York Times Company

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