2015年08月31日 11:00 〜 12:00 10階ホール
北岡伸一 国際大学学長 会見

会見メモ

戦後70年談話の有識者懇談会で座長代理を務めた北岡氏が会見し、記者の質問に答えた。
司会 小栗泉 日本記者クラブ企画委員(日本テレビ)


会見リポート

けじめをつけ責任を果たす心構え

滝田 洋一 (日本経済新聞編集委員)

戦後70年を迎えた今年は、首相の談話とも絡み、歴史はとりわけホットイシューとなった。「21世紀構想懇談会」の座長代理を務めた北岡氏は、あえて火中の栗を拾った。

 

「何が悪かったかを含め、その時代の歴史に関するコンセンサス(国民的合意)を作るワンステップにしたいと考えた」。この日の会見で北岡氏は、懇談会の報告書に込めた思いを、率直に吐露した。「基礎になるのはまず認識」として、満州事変(1931年)以降については「明らかに侵略である」と断じた。

 

反省と謝罪についても、その認識に立って所見を示した。反省について、安倍首相が用いた「リペンタンス」という言葉が重い。オペラ「ドン・ジョヴァンニ」に出てくる、「悔い改めよ。さもなくば地獄に……」の悔恨こそがリペンタンスである、という。

 

謝罪に関しては「責任は究極的に個人が負うべきもの」であり、国民全体が背負うべきものでないと強調する。戦後ドイツのワイツゼッカー大統領の演説を引きながら語るのだが、その源流にあるドイツの哲学者のカール・ヤスパースや社会学者のマックス・ウェーバーらの所見にも触れるのを忘れない。

 

ならば新しい世代が負うべき責任はといえば、「記憶し、過ちを繰り返さない責任」だと言う。前者の責任と後者の責任は峻別すべきだと指摘する。過去に学び未来に生かそうとする語りは、情理を兼ね備えている。それが国際社会の心に届くと信じたい。

 

何よりも興味深いのは、戦後70年談話が侵略、植民地支配、反省、謝罪に言及したことが示すように、首相の発言が懇談会の議論を織り込む中身になったことだ。「首相は懇談会の議論をよく読んで、アイデアに生かされたのだろう」。首相自身がうわずった語り口でなく、自分の言葉で語りかけたようにみえたのは、その成果ともいえる。

 

この夏復刊された、当時の指導者の回想録『最後の御前会議 戦後欧米見聞録―近衛文麿手記集成』(中公文庫)などをひもといてみても、日本の現代史は繰り返してならない蹉跌に満ちている。

 

大きな失敗のせいだろう。戦後の日本は平和を志向するようになったが、国際社会で起きている不条理には目をふさいでいる。ドイツ語でいえば、「オーネ・ミッヒ(僕だけはご免)」であり、それではいけない。

 

失敗から学び、けじめをつけたうえで、日本はもっと国際社会に貢献すべき。これが北岡氏の結論である。賛否はあるだろうが、これこそが正面から論ずべきテーマのはずだ。


ゲスト / Guest

  • 北岡伸一 / Shinichi Kitaoka

    日本 / Japan

    国際大学学長 / President, International University of Japan

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