2015年03月05日 18:00 〜 19:40 10階ホール
試写会「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」

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会見リポート

無法と暴力の根深さ

友田 錫 (産経新聞出身)

見終わって、鉛を飲んだような重苦しい気分に襲われた。

 

上映の直前まで「皆殺しのバラッド」というタイトルに、大げさだなと、ちょっぴり抵抗をおぼえていた。だが中身は作りものではないドキュメンタリーだ。画面に展開する苛烈な現実を目の当たりにして、そんな抵抗感は吹き飛んでしまった。

 

舞台はメキシコ第8の都市、シウダー・フアレス。リオグランデ川を挟んでアメリカのテキサス州と接する麻薬密輸の最前線で、ホンジュラスのサンペドロスラに次いで「世界で2番目に危険な町」だ。

 

監督と撮影に当たったのは著名な報道カメラマン、シャウル・シュワルツ。そのカメラの焦点は、片や麻薬マフィアを賛美する歌手、片や命の危険にさらされながら密輸取り締まりに奔走する捜査官に絞られる。

 

苛烈な現実―。ナルコ・コリードと呼ばれる麻薬マフィア賛美の歌に、地元のメキシコでも国境の向こう側のテキサス州やカリフォルニア州でも、詰めかけた聴衆が手を振り上げ、足を踏み鳴らして熱狂する。彼らには、麻薬マフィアたちは「社会の敵」どころか、ある種のヒーローなのだ。

 

一方、警察組織の多くの部分はマフィアと癒着し、ここに登場する捜査官は孤軍奮闘するしかない。

 

この地域を最大の基地としてアメリカに流れる麻薬の額は年間300億ドル、主要輸出産業の石油とほぼ同規模と推測されている。この町の麻薬がらみの殺人事件も、毎年3000件を超えるという。

 

9年前、メキシコ政府は麻薬カルテル殲滅を目指して「麻薬戦争」の火ぶたを切った。だがこのドキュメンタリーを見る限り出口は見えていない。むしろメキシコ社会、少なくともこの町にはびこる無法と暴力の根の深さに、絶望さえおぼえてしまう。


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  • 「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」

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