2014年07月30日 18:00 〜 19:40 10階ホール 
試写会「ローマの教室で~我らの佳き日々~」

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会見リポート

「学校という塹壕」から出発

明珍 美紀 (毎日新聞社会部)

「クラスメートや教師には、メールで用件を伝える。学校に行っても誰とも会話しない日がある」。取材で訪れた大学で聞いた話だ。電車の中でスマートフォンや携帯メールの画面に見入っているのは、大人だけではない。個人情報保護法の名のもと、「プライバシー」を理由に情報がブロックされる時代。中学や高校の学校現場でも教師と生徒の有機的なつながりを築くのは難しくなっているかもしれない。スクリーンに映し出された学園生活は、そんな日本の現状とは異なり、人間的なにおいを放っていた。


熱血漢の補助教員、年配の美術教師、女性校長という3人の登場人物と、思春期の生徒たちの群像劇。10代の感性はやはり豊かであり繊細だ。暗記による知識の詰め込みよりも、みずみずしい一編の詩がすっと心に入り込む。


貧困や格差など社会のひずみは、生徒たちの家庭にからまるが、教師にできることには限界がある。けれども、教師と生徒の関係は「学校の中」だけなのか。「子どもたちの人生までは救えない」と言っていた女性校長自らが、映画の中でその答えを見いだしている。


原案はイタリアの作家、マルコ・ロドリのエッセー『赤と青』(晶文社から今夏、邦訳本が刊行)。高校の教師として教え子たちと向き合った30年余の体験がつづられ、ジュゼッペ・ピッチョーニ監督(61)の創作意欲をかき立てたという。


卒業すれば、不条理と矛盾に満ちた社会が待ち受けている。「学校という塹壕の一線にいる状況から出発する映画を」とピッチョーニ監督は撮影に臨んだ。


人生というかけがえのない時間の中で、それぞれが心の支えとし、大切に思うものを確認する。その機会をつくることが、教育の一つの役割ではないかと感じた。


岩波ホールほか全国順次公開

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