2013年03月05日 17:00 〜 18:00 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」 心のケア 桑山紀彦 心療内科医

会見メモ

名取市閖上(ゆりあげ)地区で被災者の心のケアに取り組む、心療内科医の桑山紀彦さんが、震災から2年の現状と課題を語った。

「津波に向き合っていないために、被災者の心が前向きになっていない。遺産として何を残し、何を残さないかについても着手できていない」として、津波を忘れることで楽になれるというのが被災者のいまの心境だという。これまでガマンしてきた大人の心のケアや被災経験をどのように継承していくかが、こんごの課題だとして、被災者のためにも「津波記念館」のような施設をつくり、資料の記録・保存に早くとりかかる必要がある、と話した。

会見後に完成したばかりの短編映画『不思議な石』の一部を上映した。

司会 日本記者クラブ企画委員 瀬口晴義(東京新聞)

東北国際クリニックのホームページ

http://www.touhoku-kokusai.com/

桑山さんが代表理事のNPO法人「地球ステージ」のホームページ

http://e-stageone.org/

日本記者クラブホームページ

http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2013/03/r00025431/

2011年9月27日に会見した際のページはこちら。

http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2011/09/r00023359/


会見リポート

被災した子どもたちへ 心の傷にふたをしないで

熱田 充克 (フジテレビ国際局長)

桑山さんの話す言葉で、ふと思い出した小説がある。カミュの『ペスト』だ。主人公の医師、リウーは「自分の暮らしている世界にうんざりしながら、しかもなお人間同士に愛着をもち、そして自分に関するかぎり不正と譲歩をこばむ決意をした人間」だ。

いや、もちろん桑山さんはうんざりなどしていない。それどころか真正面から世界に立ち向かっている。ぴんときたのは後半の、人間に愛着を持って不正と譲歩をこばむ決意、というところだ。

どうしようもない悲惨というものがある。私の経験からいえば、例えば旧ユーゴスラビア紛争。サラエボで私が通ったまさにその場所で、婦人がスナイパーの標的となって死んだ。ガザ地区では子どもたちの悲しい目をいくつも見た。できるなら悲惨からは目をそむけたい。しかし、桑山さんは譲歩をこばんで、それらに積極的に関わってきた。

そんな経験がいま、東日本大震災で被災した人たちを救っている。

いままで新聞やテレビで桑山さんの取り組みは知っていた。フジテレビでも3月9日に放送した震災特別番組で紹介した。しかし、私が実際に彼の話を聞くのは今回が初めてだった。

心の傷は決して自然に消えるものではない。心にふたをすると、いつかは膿んで人を蝕む。PTSDになる。ふたを開けて、形にして、外に吐き出すことが必要である。たくさんの「寝た子を起こすな」という抵抗と闘い続けてきたのだろう。しなやかに、ねばり強く、経験にもとづいた信念にもとづいて。

ガレキで作った楽器は「ガレッキ」だという。被災地の子どもたちがそれを使って合唱・合奏する映像を見た。桑山プロデュース作品。子どもたちはみんな心から楽しそうだ。被災した過去を認めれば未来が描けるという。

桑山さんの言葉は、どれも明確だ。


ゲスト / Guest

  • 桑山紀彦 / Kuwayama Norihiko

    日本 / Japan

    心療内科医 / Psychotherapist

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」心のケア

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