2011年09月27日 15:00 〜 16:00 宴会場(9階)
シリーズ企画「3.11大震災」   ■被災者の心のケア 桑山紀彦 医師

会見メモ

宮城県名取市の東北国際クリニック院長で心療内科医師の桑山紀彦さんがシリーズ企画「3.11大震災」で被災者の「心のケア」について語り、質問に答えた。


桑山さんは3.11以後の被災者について、1カ月目は「1カ月たってもまだ、こんな状態だ、と落ち込む記念日反応の大人が多かった」、2カ月を過ぎるころ「子どもたちが悲鳴をあげた」、3カ月目は「将来の希望が見えない、と悲しみの時期となった」と振り返った。「寝た子を起こすな」と反対もあったが、3カ月を過ぎるころから「心のケア」を始めた。大震災の経験のあと、記憶が時間通りに並ばず、一部の記憶が欠落したままでつらい記憶を心の底に押し込める子どもが多かった。「記憶を取り戻すことで物語をつなぎ、外に表現することで人間は前に進める。物語を聞いてあげることで重荷から解放される」と説明し、被災者の「語り」の良き聞き手となる重要性を指摘した。外国では人に伝わるように語れる人が多いのに対し、日本ではどう語っていいかわからない人が多く、「語る土壌がない」という。桑山さんが医師として活動したパレスチナ・ガザ地区ではPTSDの有病率は1.2%なのに対し、阪神大震災では9.7%に達した、と紹介し「東日本大震災でも、このままでは今後、かなりメンタルヘルスが必要となる」と懸念を示した。「すべての人が良き聞き手になれる。『よろしかったら話してください』と話しかけ、聞き出すことができる。取材の相手が泣き出しても、記者はとことん聞いてあげてほしい」と呼びかけた。


司会 日本記者クラブ企画委員 川村晃司(テレビ朝日)


桑山紀彦さんのブログ

http://blog.e-stageone.org/

東北国際クリニックのホームページ

http://www.touhoku-kokusai.com/

桑山さんが代表理事のNPO法人「地球ステージ」のホームページ

http://www.e-stageone.org/index.html


会見リポート

被災者の心のケア これからが正念場

瀬口 晴義 (東京新聞論説委員)

少し早口だけれど、穏やかに語られた被災地の現実に、心を動かされなかった人はいなかっただろう。


桑山さんはまず、被災地が津波に襲われた当時の写真などをプロジェクターに映し出した。その中に中学生が学校から撮った動画があった。宮城県名取市閖上地区で、まだ徒歩で逃げている人がいる街をまさに津波がのみこんでいく瞬間だった。


学校にいた生徒はこの場面を目に焼き付けたはずだ。流されたのは知り合いのおばちゃんかもしれない。彼らが負った心の傷をどうケアしていくのか。桑山さんが今、全身全霊を傾けているのがその問題だ。


ユーゴ紛争、東ティモール、パレスチナのガザ地区。イランやパキスタン、ジャワ島の大地震、スマトラ沖の大津波…。緊急医療救援のメンバーとして、戦地や被災現場で被災者に寄り添ってきた桑山さんは、世界で起きている出来事を映像や音楽で分かりやすく伝える「地球のステージ」の活動で全国を回っている。震災が起きたのは埼玉県長瀞町の学校で活動していた時だった。9時間かけて宮城県名取市にある東北国際クリニックにたどりついた。


精神的疲労を訴える被災者が激増したのは、震災から1カ月経った頃だった。1カ月経つのに…と希望を持てない人が多かった。子どもたちが悲鳴を上げ始めたのは2カ月を迎える頃だ。暴力や暴言を吐いたり、夢遊病のような症状も。


桑山さんは「心のケアはこれからが正念場。いまやらないと5年後、10年後に働く意欲を失ったりする人が出てくる」と強い危惧を抱く。「私見」と断って語った言葉が心に残る。「海外の被災者は他人に自分の物語をうまく伝えるが、日本にはその語りの土壌がない」


ゲスト / Guest

  • 桑山紀彦 / Norihiko KUWAYAMA

    日本 / Japan

    心療内科医

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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