会見リポート
2012年05月28日
16:30 〜 17:30
10階ホール
総会記念講演会 三谷太一郎・東京大学名誉教授
会見メモ
三谷太一郎・東京大学名誉教授が日本記者クラブ2012年総会記念講演会で、『冷戦後の日本の政治』と題して講演した。
会見リポート
真理は時を超える
橋本 五郎 (企画委員 読売新聞特別編集委員)
真の学問とは何だろう。どんな歴史研究であろうが、今生きている私たちにどのような意味があるのかというアクチュアルな問題意識に貫かれていなければならない。と同時に、作品それ自体が優れた「現代批判」を含んでいなければならない。固くそう信じている私にとって、三谷太一郎さんの一連の研究は、その“標本”とも言うべきものだと思っている。
原敬の政治指導、吉野作造ら大正デモクラシー期の知識人の苦闘、戦前の陪審制の政治的意味、大正デモクラシー下の外交と国際金融システムとの関係……。それぞれ実証研究に徹することによって、現代をみる鏡(鑑)になっているのである。
おそらくその姿勢は記念講演でも貫かれるだろう、かなり硬めで入るだろう、と固唾をのむ思いで開演を迎えた。ところが予想に反し(?)、漱石の講義的講演「文芸の哲学的基礎」から入られた。自分は講演が嫌でみんな断ってきた。その代わり講義は毎日やってきたので上手だろうが、生憎お頼みが演説だから定めて拙いだろう。こう言う漱石と私も同じだと始めたのである。
あとで「文芸の哲学的基礎」を読み、漱石の謙遜の裏には烈々たる自信がのぞいていることがわかるが、三谷講義もまさにそうだった。「55年」体制下の日本政治、冷戦後の日本政治を大きく規定していたのは「経済的要因」であることを鮮やかに分析、今後の日本と世界を展望するうえでのキーワードを、徳富蘇峰の言う「信約(信用)」に定め、ギリシャ危機まで視野に入れた展望を示された。
まさに三谷さん自身が『日本政党政治の形成』(東京大学出版会)の序文で書かれている「情報はすぐ旧くなるが、真理は時を超える」を実証してもらった気がする。「知的洗心」の時を過ごした思いだった。
ゲスト / Guest
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三谷太一郎 / Taichiro Mitani
日本 / Japan
東京大学名誉教授 / Professor Emeritus, Tokyo University
研究テーマ:総会記念講演会