2011年08月30日 17:45 〜 19:15 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」 谷川武 愛媛大学大学院教授 東電非常勤産業医

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会見リポート

作業員のケア 継続的取り組みを

池上 秀紀 (共同通信社会部)

東京電力福島第一原発では事故収束に向けた作業が続く。しかし、その実態はベールに包まれたままだ。谷川武教授は事故以来、毎月、福島入りし、労働環境の改善、心のケアに取り組んできた経験を語った。


緊急時対応が続く4月半ば。防護服姿で、大勢の社員が退避先の第2原発体育館に身を横たえていた。段ボール箱が布団代わり。食事はレトルト食品と缶詰が続いていたという。


「何とかしてやらないと身体がもたないな」。医師の目にはストレスを心配する以前の問題に映った。睡眠不足や過労は作業ミスのリスクも高める。シャワーや2段式ベッドの設置、生野菜を食事に加えるよう提案したが、東電は受け入れない。取材を受けると劣悪な労働環境の改善を訴え、報道や世論に押されて東電はようやく重い腰を上げたという。


睡眠時無呼吸症候群(SAS)の研究者として、福島では患者と周囲のため、いびきの治療器も導入した。


ただ、社員が抱えるストレスは今も懸案のまま。多くの人が現場で幾度となく死を覚悟した経験を持ち、現在の作業も大量被曝の危険と隣り合わせだ。肉親や友人、知人の死に直面。多くは地元採用で被災者であるうえに、東電の一員として「加害者」の意識もあるという。


ストレスを把握する問診票を配り、面談も始めた。将来のうつ病発症や過労死を防ぐため、継続的な取り組みの必要性を強調する。


作業の継続に伴い、社員の被曝線量も上昇。上限に近づくと異動対象になるが、家族とともに住み慣れた土地を離れる不安も大きいようだ。


「医学的には250㍉シーベルトの放射線を浴びるより『5年間ここで仕事ができない』と言われる方が心身への影響は大きいのではないか」。物議を醸しかねない発言と感じたが、長年にわたって現場に寄り添ってきた医師ならではの悩みを垣間見た。


ゲスト / Guest

  • 谷川武 / Takeshi TANIGAWA

    日本 / Japan

    愛媛大学大学院教授 東電非常勤産業医

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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