2011年06月14日 14:00 〜 15:30 宴会場(9階)
著者と語る 青木冨貴子  『昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領―』(新潮社)

会見メモ

ニューヨーク在住のジャーナリスト、青木冨貴子さんがシリーズ「著者と語る」で新著「昭和天皇とワシントンを結んだ男 『パケナム日記』が語る日本占領」(新潮社)について語り、質問に答えた。


青木さんが取り上げたイギリス人ジャーナリスト、コンプトン・パケナムは占領期にニューズウィーク誌東京支局長を務めた。400ページにのぼる手書きの日記を発見し、これまでほとんど知られることがなかったパケナムの行動と埋もれた占領史を解明していく。パケナムは昭和天皇の側近松平康昌と親しい関係になり、吉田茂、鳩山一郎、岸信介、ダレスら日米の政治家に食い込んだ。パケナムを介して、天皇からマッカーサーを飛び越えてワシントンにつながるチャンネルが存在していたことが明らかになる。パケナムの実像を求めて世界各地を飛び歩き、墓地をみつけ、秘蔵写真の入手に至るノンフィクションの取材体験を語った。


司会 日本記者クラブ企画委員 会田弘継(共同通信)


新潮社ホームページの青木冨貴子さんと著書のページ

http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/373206.html


http://www.shinchosha.co.jp/writer/585/


会見リポート

占領期のフィクサーの暗躍を発掘

吉村 信亮 (中日・東京新聞OB)

もう30年近く昔のこと、うら若い女性が私の勤め先を訪ねてきた。その10年も前に私がニューヨーク支局から送った、伝説の女流飛行家アメリア・イアハートの足取りをめぐる雑報について聞きたいという。そんな記事を書いたことすら忘れていた私は、微細なものまで見逃さないリサーチ力に舌を巻いた。彼女の執念は後に『アメリアを探せ……』という著作になって結実した。


この人、今はニューヨーク在住の青木冨貴子さんが今度は戦後の占領期を舞台とした日米関係裏面史を暴く新著『昭和天皇とワシントンを結んだ男「パケナム日記」が語る日本占領』を発表した。主人公は神戸生まれのイギリス人で、米ニューズウィーク誌東京支局長を務めたコンプトン・パケナム。会見で著者が軽やかに語るあらすじでも、この男のフィクサーぶりは只事でなかった。


昭和天皇の信頼厚い式部官長・松平康昌の世話で借りた渋谷・松濤の自宅夕食会に、講和条約の下準備に来日した大統領特使ジョン・フォスター・ダレスを招いてしまう。パケナムをワシントン直結のラインと見た天皇は松平を介してメッセージをダレス宛に託す。時の最高権力者マッカーサーの頭越しにである。


マッカーサー・吉田茂首相コンビを嫌ったパケナムは、次代の指導者として鳩山一郎、岸信介を次々にダレスに売り込む。彼らこそが日本再興の礎としての日米同盟を固め得る政治家との思いからであった。


新著でも著者のあくなきリサーチ精神が発揮される。このフィクサーの暗躍ぶり発掘も、ワシントンで見つけた、400枚もの本人手書きの日記解読が発端だった。パケナム追跡は先祖のアイルランドの古城にまで及び、遺骨が東京・多磨霊園に眠ることも突き止める。「彼は墓に入って私を待ってくれていた」──青木さんの結びの言葉である。


ゲスト / Guest

  • 青木冨貴子 / Fukiko AOKI

    日本 / Japan

    ジャーナリスト / writer

研究テーマ:著者と語る『昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領―』(新潮社)

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