2011年04月15日 15:00 〜 16:30 10階ホール
研究会「TPP」①生源寺眞一 東京大学大学院教授

会見メモ

農業政策が専門の生源寺眞一・名古屋大学教授が研究会「TPP」で「あらためて農業・農政のあり方を考える 経済連携問題をめぐって」と題して話し、質問に答えた。


≪「TPPをめぐり、農業界と経済界の対立が先鋭化したのは残念だ。菅首相が唐突に、説明なしに方向転換した」≫


生源寺教授は「2010年10月1日の菅首相の所信表明演説でいきなり、TPP交渉参加検討が打ち出されたため、意見の対立が深まった」と批判した。1990年代初めからの農政の方向が、09年の政権交代で転換したが、菅政権になって農業競争力強化路線に回帰した経緯をふりかえり「逆走、迷走の農政」と表現。「同じ民主党政権で、説明がないまま政策が違っている。強い農業の障害になっているのは農政だ」と指摘した。

全体の流れとして、「中長期的には国境措置は下がっていくだろう」とした上で、TPPによって利得を得る領域と損失をこうむる領域を検討し、利得の再配分を考慮すべきなのに検討されていないと問題点をあげた。政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は再配分メカニズムについて議論しないままで、東日本大震災のため、3月中に予定していた「中間とりまとめ」を先送りした、という。

大震災の影響について、地震・津波の被災地域と原発事故の影響を受ける地域は問題が違うことを指摘し「日本の食の安全性と信頼性を回復するのは相当、長期戦となる。しかも、幸福とはなにか、(人々が)自問自答している段階だ。TPPの前提も考え直すことになるのではないか」と述べた。


司会 日本記者クラブ企画委員 小此木潔 (朝日新聞)


使用したレジュメ

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/a3145ba4caa0ce34de1f4253f29f3f42.pdf

使用した資料

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/75239aec028f4378446fc4c7fed4cca2.pdf


会見リポート

TPPへの賛否明言せず

行友 弥 (毎日新聞経済部編集委員)

大震災と原発事故に吹き飛ばされた感もあるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加論議。しかし、TPP問題が突きつけた日本農業の改革や「この国のかたち」をめぐる根源的な問いかけが消えたわけではない。だからこそ、政府の「食と農林漁業の再生実現会議」の中心メンバーである生源寺さんが今、何を語るのか大いに興味をそそられた。


生源寺さんは自公政権末期、自民党農林族の反発に遭いながらコメ政策の改革(減反選択制)を打ち出した石破茂農相(当時)のブレーンと目された人物である。取材で二度ほどお目にかかったことがあるが、冷徹な現実認識に裏打ちされた穏健な改革論者であり、バランスの取れた農政観の持ち主と感じた。


今回の研究会でも、その印象は変わらなかった。07年の参院選に始まる農政の「逆走・迷走」へのいら立ちと、小農保護に軸足を置いていたはずの民主党政権が路線を180度転換したことへの当惑は全く同感だ。中長期的には国境措置(関税などの貿易障壁)の削減が避けられない現実を直視しつつ、次代を担う農業者を育成し、どうしても残る競争条件の不利は直接支払い(所得補償)で補う考え方にも完全に同意できる。


ただ、物足りなく感じた点もいくつかある。一つは「経済連携の選択肢は一つではない」としながらもTPPそのものへの賛否は明言しなかった点だ。ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)への対応を含め、日本にとって最も望ましい貿易自由化の選択肢を明示してほしかった。


また、食と農林漁業の再生実現会議について「仮に震災がなくても、3月中に実のあるとりまとめは困難だった」と振り返られた。さもありなんとは思うが、有力委員の一人と

して拙速な議論の進め方をどう感じていたのか。もう少し率直なところを聞きたかったと思う。


ゲスト / Guest

  • 生源寺眞一 / Shinichi SHOGENJI

    日本 / Japan

    名古屋大学教授 / Ph.D. Professor, Nagoya University

研究テーマ:TPP

研究会回数:0

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