2011年03月01日 14:30 〜 15:30 10階ホール
ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート EU 駐日大使

会見メモ

EUのシュヴァイスグート新駐日大使が就任後、最初の記者会見を行い、EUの機構改革やユーロ危機の解決、日本との関係について語り質問に答えた。


≪「欧州と異なり、アジアにはノーマルな関係を妨げる安全保障上の障害や領土紛争など危険な要素がある。米国が引き続きアジアにおける最大のパワーだが、今後は二つの巨人である日本と中国の関係が、決定的な要素となる」≫


シュヴァイスグート大使は出身国オーストリアの駐日大使と駐中国大使も務めた。今回は、EUが外交機能を強化するため設立した欧州対外行動庁から駐日大使として派遣された。駐日大使の役割は日本におけるEUの代表であり、また日本でのEU加盟国間の調整にもあたり、加盟国大使会議を開いているという。

ユーロ加盟国の一部で起こった金融危機については、ユーロ強化の支援措置を取っただけでなく、新たな経済強化システムの導入を強調した。

EUと日本の関係について、紛争の平和的解決、多角的外交、国連重視など価値観や外交の対応で同じ立場を共有していると説明した。日本とのEPA(経済連携協定)交渉に関連して、EUにとり日本の市場アクセスで関心があるのは農産物をべつにすれば、繊維、皮革などニッチな分野だと述べ、日本の政府調達で外国企業の占める比率が低いことや外国企業の対日投資が低いことも指摘した。EUの内部に対日交渉をめぐり慎重論があるとすれば、日本が交渉で対処する意欲があるか疑念を持っているからだろう、との見方を示した。

日本と中国について、「経済規模は同じだが、1人当たり経済力は日本が中国の10倍あり、中身は違う。両国は相互補完の経済関係にある。両国関係がどうなるかは、アジアの今後の決定的な要素だ」と語った。

司会 日本記者クラブ企画委員 会田弘継(共同通信)

通訳 長井鞠子 (サイマルインターナショナル)


駐日欧州連合駐日代表部のホームページ
http://eeas.europa.eu/delegations/japan


会見リポート

価値観共有で関係強化を

粟村 良一 (共同通信論説委員)

欧州連合(EU)の基本条約、リスボン条約が発効して1年余。「EUの在り方、行動の仕方が新しくなった」という。「(27カ国に拡大した)EUの弱点は、対外関係における構造的な弱さだ。EUの利益のために一貫性ある対話ができず、存在感を示せなかった」


そこでEU大統領(首脳会議の常任議長)や外交安全保障上級代表(外相に相当)を新設して、指導力の発揮を狙った。だが最近のチュニジア、エジプト、リビアの中東民主革命では、米国や国連に比べEUの対応は遅れ存在感は薄かった。


ユーロ危機も深刻だ。ギリシャ、アイルランドと続いた危機で「ユーロは失敗、生き残れないという論調があるが、私は生き残ると思う」と強調する。「確かにこの1年半、危機的な瞬間はあった。主権、経済ガバナンスの危機を露呈した。しかし長期的にユーロ支援の新経済ガバナンスを導入する仕組みができた」


EUの金融、銀行・保険セクターの監督庁の発足や、5000億ユーロの金融安定基金の創設合意を根拠に挙げた。



EUと日本は価値観を共有する数少ないパートナーだという。「ものの考え方が同じ。紛争の平和解決、多角的な外交、国連の役割の評価、核拡散防止やエネルギー安保でも同じ考えだ。低成長、雇用、社会負担の増加など経済社会が直面する問題も共有する」



それだけに貿易、投資関係をもっと強化できるのではと訴える。「日本市場でのEUのプレゼンスは弱すぎる。集中的に非関税障壁をどう取り除けるか話し合う必要がある」「日本市場への外国企業の投資や、エアバスの市場シェアはあまりに低い。日本側に対処する意欲があるのかと疑念さえもつ」と苦言も。

駐日オーストリア大使を務めた知日家だ。日本とEUの関係強化に適任の新大使に期待したい。


ゲスト / Guest

  • ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート / Hans Dietmar Schweisgut

    EU / EU

    駐日大使 / Ambassador, Head of Delegation of the European Union to Japan

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