2011年02月28日 12:00 〜 14:00 10階ホール
笠間治雄 検事総長 昼食会

会見メモ

2010年12月、検事総長に就任した笠間治雄氏が昼食会で記者会見し、大阪地検特捜部の証拠隠滅事件への反省と信頼回復策について、自分の現場体験を交えながら語り、質問に答えた。


≪「検察がストーリーを描いてストーリー通りの供述調書をとる、といったことが蔓延しているわけではない。だが調べを受けた人から、押し付けだと批判が出ている。火のないところに煙は立たないのだから、根絶しなければならない」≫


笠間検事総長は信頼回復の方向性として①妥当でない捜査は二度と行わず、捜査の暴走を防ぐ②捜査力をアップし真相解明ができる力をつける――の2点をあげた。

捜査の暴走を防ぐ措置として、「特捜捜査の一部録音録画」を説明した。検察官が判断して録音・録画を行い、供述の任意性と信用性の立証に使うためで、全面可視化ではない、という。取り調べの「説得過程」は録画しない。複数の容疑者がいる事件では「最初にしゃべったといわないで」と条件をつけて供述を始めた被疑者がいた、と自分の取り調べ経験を話し、全面可視化は捜査が難しくなるとの認識を示した。刑事処分が適正かをチェックする措置として、①高検・最高検に特別捜査係検事を新たに置く②捜査主任検事のもとに総括補佐検察官を置くことを検討する――の2項目を明らかにした。特別捜査係検事には、捜査の全証拠にアクセスしたり取り調べ検事の手法を調べる権限を与える。総括補佐検察官は捜査を弁護人の視点でチェックし、特捜部以外の公判部などから派遣する。

捜査力の強化策では、供述調書至上主義の排除を掲げ、録音録画のもとで供述を得るノウハウや、調書に依存しないで成功した例を集めたいと語った。

村木厚労省局長無罪の反省点を聞かれ、「考えていた構図と違う証拠品であるフロッピーディスクが出た時に捜査をストップさせるべきだった。だが、証拠を見た者が意見をいわず、決裁する者がチェックしなかった。チェックシステムが機能していなかった」と答えた。

検察審査会の強制起訴制度について「検審の起訴基準は検察とは違う。私どもは処罰価値のあるものを起訴する。検審の強制起訴制度と検察の起訴は一線を画したい」と述べた。特捜部の権限について「特捜は捜査と起訴の両方をするから暴走しやすい。警察の捜査を検察が第三者として(起訴の是非を)判断するから、起訴してはならない事件を起訴しなくてすんだ。特捜においても、そのようなことがあってもいいと前から思っていた」と述べ、特捜部に起訴権を与えず別の担当に任せる改革に意欲をみせた。


司会 日本記者クラブ理事 小櫃真佐己(フジテレビ)

代表質問 日本記者クラブ企画委員 菅沼堅吾(東京新聞)


検察庁のホームページ

http://www.kensatsu.go.jp/

朝日の有料サイト「法と経済のジャーナル」に記事が掲載されています。 

http://astand.asahi.com/magazine/judiciary/articles/2011031300004.html


会見リポート

“現場派”検察再生への決意

大沢陽一郎 (読売新聞論説委員)

思えば、前検事総長の大林宏氏が当クラブにゲストとして招かれたのは、わずか半年前の昨年9月1日だった。その後、大阪地検特捜部の不祥事が次々に明らかになり、大林氏は昨年末に引責辞任した。急きょ、後を継いだのが笠間治雄氏である。


「捜査の暴走を防ぐこと、そして、真相を解明する捜査力を向上させること」。失った国民の信頼を回復するためには、その両方が必要だと切り出した。気負いのない語り口ながら、強い信念を感じさせる。


法務省の勤務経験がない代わりに、東京地検特捜部には部長時代を含め通算で約12年在籍した。会見で注目されたのは、自他共に認める「現場派」が特捜部から起訴権限を分離する考えに言及したことだろう。


「特捜部は自分で捜査して、自分で起訴するから暴走しやすいと、以前から思っていた」とも明かし、公判部の検事に起訴させる構想を具体的に示した。特捜部の在り方を根本から見直す問題提起であり、検察改革の焦点になるのは間違いない。


一方、言葉の端々に現場の検事たちへの思いもにじんだ。


「罵詈雑言を浴びせる取り調べが常態化しているのなら、全過程を録音・録画しなくてはならないが、そうはなっていない」。3月から始める特捜事件の取り調べの録音・録画を部分的なものにとどめたことに対する批判にはそう答えた。


「供述調書に頼らずに成功した事例を全国から集め、捜査手法を工夫していきたい」とも語った。逆風の中で萎縮しがちな現場を鼓舞しようとするメッセージに聞こえた。


笠間氏は、部下にもわれわれ記者にも偉ぶることなく接する人柄で知られる。揮ごうは「百人いれば百様の正義」。独善に陥ることなく、組織内外の声に耳を傾けて、検察再生を目指す決意と受け取れた。


ゲスト / Guest

  • 笠間治雄 / Haruo KASAMA

    日本 / Japan

    検事総長 / Prosecutor-General, Supreme Public Prosecutors Office

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