2010年12月06日 14:00 〜 15:30 10階ホール
劉傑・早稲田大学教授「日米中」17

会見メモ

日中関係の歴史に詳しい劉傑・早大教授がシリーズ研究会「日米中」⑰で「中国の外交関係と日中関係」と題して話し、質問に答えた。


劉教授はまず、小泉政権以降の日本の対中外交を示すキーワードをとりあげ、菅内閣について「キーワードはみつからないが、『脱中入亜』ではないか。チャイナリスクを回避するため、ほかのアジアとの関係を広げ、対中依存を減らそうとしている」と述べた。中国の外交戦略について歴史をおって位置づけたあと、最近の中国には「大国意識が復活したが、『世界と協調する大国』のイメージがまだできていない」と指摘した。大国のモデルとして米国を意識しているのではないか、と述べ「アメリカよ、中国を大国として受け入れる準備はできているか」と問いかけた人民日報の論文(2010年7月)を紹介した。

さらに、日本と中国の歴史認識の違いを解説し、日本が敗戦により一新され「1945年の歴史」に立っているのに対し、中国は辛亥革命の「1911年の歴史」にあると比較し、歴史と対話する時の対象や構図が違うと説明した。孫文の目標だった「統一・独立」「建設」といった課題がいまも続いている、という。現在の日中関係についても、中国人の頭の中にあるのは「1895年(日清講和条約)+1901年(義和団事件北京議定書)+1905年(対華21カ条要求)+1927年(山東出兵)+1931年(満州事変)+1945年(戦勝国中国)+1972年(国交正常化)+1978年(平和友好条約・対中ODA)」の総和だ、と分析した。中国の思考回路が「歴史に答えを求める」といったものであるのに、共通の歴史事象をめぐる日中の理解が違ったり、ずれている現状を指摘した。尖閣諸島、民主化、劉曉波、愛国主義教育、習近平副主席などに関する質問にも答えた。


司会 日本記者クラブ企画委員 坂東賢治(毎日新聞)


早稲田大ホームページの研究者プロファイルにある劉傑教授

http://www.waseda.jp/rps/webzine/pr/new_number/vol007/vol007.html


会見リポート

中国は国際協調の道を歩むか

泉 宣道 (日本経済研究センター常務理事・事務局長)

「日米関係の核心は中国問題である」─。 劉傑教授は「中国の外交戦略と日中関係」をテーマにした講演の冒頭、1936年の西安事件をスクープし、著書『上海時代』で知られるジャーナリスト、松本重治氏の米国留学時代の恩師、チャールズ・ビアード博士の言葉を紹介した。

戦前の日米中関係を的確に言い当てた格言だ。劉教授は「さらに状況は発展し、日米に限らず世界の問題は結局、中国の台頭に世界がどう対応するのかというような問題にもなりつつある」との認識を示した。

2010年、中国は名目の国内総生産(GDP)で日本を追い抜く。日本と中国が東アジアでともに「経済大国」として並び立つのは歴史上初めてだが、尖閣諸島沖での衝突事件を機に日中関係は冷え込んだ。このところ強硬な態度を見せる中国への国際社会の警戒感も根強い。

劉傑教授は尖閣事件について「日中関係の構造的な変化を象徴するような出来事だ」と指摘した。

日本側は日清戦争以降、100年以上、弱い中国と付き合ってきたため、徐々に強くなっていく中国にどう対応するかの方法論がまだ見つかっていない。一方で中国も民主党政権とどう付き合うかの方針が定まっていない……。

両国の歴史認識の違いを長年、深く研究してきた劉教授の分析は洞察力と示唆に富む。

米国に次ぐ世界第2の経済大国に躍り出る中国国内では「大国意識」が復活する半面、世界と協調する構想は明確に描かれていない。

「中国は周辺の国々がどう思っているのか、丁寧に慎重に謙虚に考えていかなければならない」。劉教授の直言に同感である。

「2011年以降、外交政策の面では大きな政策の調整が行われるのではないか」との見通しにも期待したい。

ゲスト / Guest

  • 劉傑 / Jie Liu

    中国 / China

    早稲田大学教授 / Ph.D. Professor, Waseda University

研究テーマ:日米中

研究会回数:17

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